導入
膝離断性骨軟骨炎の原因や症状、適切な治療法を医師への取材を通じてご紹介します。(「ひざりだんせいこつなんこつえん」、「しつりだんせいこつなんこつえん」と呼ばれます。)
膝離断性骨軟骨炎の症状はさまざまなものです。記事と照らし合わせながら、膝の症状に当てはまるものがないか確認してみて下さい。また、膝離断性骨軟骨炎における注意点もありますので、ぜひ最後までご覧ください。
膝離断性骨軟骨炎とは
膝離断性骨軟骨炎とは、骨軟骨が関節内に剥がれ落ちてしまう疾患です。
発生箇所
大腿骨(だいたいこつ)の内側部分がおよそ85%、それ以外に大腿骨外側が13%で、膝蓋骨(しつがいこつ)が1%以下となっています(*1)。また、外側例では円板状半月(えんばんじょうはんげつ)を合併することもあります。
「膝蓋骨」とは、よく「ひざのお皿」と呼ばれる部位のことで、膝関節の前部分に位置しています。
好発年齢
膝離断性骨軟骨炎は、約2:1の割合で男性に多く、成長期に運動を行う、10歳台で好発します。
ある研究では膝離断性骨軟骨炎11例で平均年齢が16.9才であり男性が72%を占め(*2)、別の研究では14例の平均年齢が16.6才で男性割合が85%と(*3)、男性に多く、そして10代に好発することがわかります。
原因・機序
膝離断性骨軟骨炎が起こる仕組みについて解説していきますが、実のところ、そのメカニズムは明確にわかっているわけではありません(*2)。いくつかの説から、ひとつご紹介します。
繰り返す負荷が軟骨の下の骨にかかることがおもな原因です。膝に負荷やストレスがかかったり、強い衝撃などが与えられたりすることをきっかけにして始まると考えられています。特に、膝に負荷がかかりやすい、ハイインパクトのスポーツの選手に起こりやすいことが報告されています。
スポーツ活動や外傷による負荷によって血流障害が起こり、軟骨の下の骨が壊死し、その結果、軟骨が不安定になり、元々くっついていた土台(母床)から軟骨のかけら(軟骨骨片)が剥がれます。さらに症状が悪化してしまうと、完全に剥がれて軟骨のかけらが関節内へ漂いふわふわと移動する”遊離”という状態に陥ります。このような仕組みから、膝離断性骨軟骨炎ではさまざまな症状が発生するとされています。
軟骨とは
ちなみに今回お話する「膝離断性骨軟骨炎」に登場する”軟骨”ですが、そもそも”軟骨”にはどのような役割があり、どのような特徴があるのでしょうか。
役割
まず軟骨の役割ですが、関節においては2つあります。ひとつが、膝への負担に対するクッションのような緩衝材としての役割、そしてもうひとつが関節の動作を滑らかにする役割です。これは、関節を厚さ2〜4mmでカバーする軟骨の約80%が、水分で構成されているからこその役割となっています。(*4)
特徴
軟骨は一度損傷を受けると自然には治らない・自然治癒しない、という特徴があります。というのも、軟骨には栄養を運ぶなどの役割を持つ血管がほとんど通っていないことと、自己増殖能力がほぼないことが原因とされています。
平穏な日常生活を過ごしている限り、加齢にともなって長い年月をかけてすり減ることは自然で、若年時に大きく摩耗することはほとんどありません。しかし、事故や体重の負荷(肥満)、過度のスポーツ活動による怪我などで一度でも大きく傷ついてしまうと、ここまで述べてきた理由で軟骨はほとんど自然治癒が見込めません。(*5)
診断
診断を行う際に、初期状態はレントゲン検査では判定しにくいために、MRIで確定診断を行います。
膝離断性骨軟骨炎の病気分類は、以下の図のように4つのステージに分類されます。
Ⅰ病変部すぐ上の軟骨で軟化
Ⅱ一部に亀裂が見られるが、病変部は安定
Ⅲ軟骨に亀裂があり、完全には剥離せず
Ⅳ骨軟骨片が母床から完全に遊離
この4つの分類は世界でも用いられており(ICRS OCD分類)、このステージ分類に基づき治療法が選択されることが一般的です。
以下、そのステージごとの症状や治療法を詳しく見ていきましょう。
非分離型(ステージⅠ~Ⅱ)
非分離型とは
膝離断性骨軟骨炎は、軟骨が完全に分離・遊離している状態なのかどうかによって、症状や治療法が変わっていきます。
「非分離型」は、後ほど説明する「分離型」よりも症状が前段階で、軟骨がまだ完全には母床、つまり元々くっついていた場所から分離・遊離していない状態のことを指します。かんたんに言えば剥がれかかっている・剥がれているがまだもとの軟骨とつながっている、というような状態と言えます。
医学的なステージでいうと、ⅠとⅡに当てはまります。
非分離型の症状
安静時痛・夜間痛
非分離型の膝離断性骨軟骨炎の初期症状は、運動後の不快感や鈍痛の他は特異的な症状は出ません。
運動時の痛みよりも、安静にしているときや夜眠っているときの痛みがよく見られます。眠っていても目が覚めるような痛みが感じて病院へかかられることがあります。
もし小中学生のお子さんがいる家庭で、子供が夜に目を覚まし、膝の痛みを訴えていたら、一度病院へかかるようにしましょう。
痛み
非分離型の膝離断性骨軟骨炎が次第に進行すると、関節の軟骨が変形したり亀裂が入るなどして、疼痛が起こりやすくなります。(*6)
症状が進行して悪化すると、運動時に痛みや不快感を覚えやすく、日常生活に支障が出ることもあります。
非分離型の治療法
治療法についてですが、保存的治療と外科的治療の2つに分類されます。非分離型の外科的治療では、骨髄刺激法が行われます。
保存的治療法
保存的治療法とは、手術など外科的な方法を行わない治療法を指します。この保存的治療法がおこなわれる条件は、軟骨片が完全に剥がれていないこと、つまり病期が進行していないことです。
具体的な治療法としては、まず最初にスポーツ活動を中止し、安静にします。約3〜6ヶ月間スポーツなど運動の中止と安静をしていれば、治ることがほとんどです。症状が強い場合には、松葉杖を使って、膝への負担を減らします。サポーターなどを使った関節の固定や安静もまれに行うことがあります。
しかし、それでも治らない場合には、手術となることがあります。また、運動の中止ができない人もいます。スポーツ特待生などで、どうしても運動しなければいけない場合には、スポーツ活動への早期復帰を目的に後述する外科的治療を選択し、なるべく早い復帰を目指す場合もあります。
手術
骨髄刺激法(骨穿孔術、逆行性骨穿孔法)
「ドリリング」という技術で膝離断性骨軟骨炎を発症した障害部位に数カ所の穴を開けることで治癒を目指す治療です。
軟骨欠損部に直径1mmほどの穴を何カ所に開けることで、そこへ血液と骨髄液を誘導します。亀裂部の修復、癒合を促すことです。
以上の骨髄刺激法は関節鏡という関節用の内視鏡を用いて行われますので、膝に数cmの穴を2〜3個あけて行うこととなり、手術のなかでは比較的身体への負担が少ないものになります。
骨髄刺激法が該当するのは、初期段階で、母床(軟骨の土台)から完全に分離していない状態に選択されることが多いです。
なお、本治療による骨癒合期間は平均で約3ヶ月ほどです。
分離、遊離型(ステージⅢ~Ⅳ)
分離型とは
膝離断性骨軟骨炎の「分離型」とは、先ほどの非分離型よりも重篤なケースで母床(軟骨の土台)から軟骨のかけらが完全に分離・遊離しており、末期に近い状態のことです。
膝離断性骨軟骨炎の国際分類ステージⅢ・Ⅳが分離型に当てはまります。
分離、遊離型の症状
強い痛み
膝離断性骨軟骨炎が発症して、膝の骨軟骨片が母床(骨が元々くっついていた場所)に亀裂や変性が生じると疼痛も強くなり、スポーツ活動などで支障を来します。(*8)
膝のズレ感
この分離した軟骨が動き回っている現象は“関節ねずみ”とも呼ばれます。分離した軟骨のカケラが関節内を自由に動き回ることから名づけられました。こうなると、膝の「ずれ」や「引っ掛かり」を感じやすくなります。(*9)
ロッキング
母床(土台)から遊離した軟骨が、関節を動かすためのスキマに挟まってしまうと、強い痛みによってひざを伸ばしたり曲げたりができなくなる「ロッキング」という状態になってしまうことも多いです。(*10)
分離・遊離など、症状が進んだ軟骨は元の状態に戻すことが難しいため、初期のうちに症状を発見し治療を開始することが重要です。
分離、遊離型の治療法
ここからは、膝離断性骨軟骨炎の分離型に対する3つの外科的な治療法を紹介します。
- (骨軟骨)整復(内)固定術
- 自家骨軟骨移植(モザイクプラスティ)
- 自家培養軟骨移植術
整復固定術
治療法としては、まず母床をきれいにした後に、骨釘(自分の骨を釘の形になるように成形したもの)や生体吸収性ピンを用いて、分離してしまった骨軟骨片を可能な限り元の位置に再接合させます。軟骨骨片が母床に安定してくっついている、つまり完全に剥がれて浮いてはおらず軟骨の土台とある程度つながっていれば、一番優先度が高いとされます。ある研究では、10人中10人が術後6か月以内に癒合が見られ、スポーツ活動への復帰が可能になったというデータもあります。(*11)
自家骨軟骨移植(モザイクプラスティ手術)
非荷重部の太ももの軟骨から、円柱状にくり抜いた軟骨を、軟骨の欠損部へと移植する手術です。関節軟骨内で治療が完結しやすいというメリットがある反面、正常な軟骨から採取できる軟骨の量には限界があります。
この自家骨軟骨移植(モザイクプラスティ)については、いくつもの研究で良好な結果が得られたと報告されています。(*12)
自家培養軟骨移植術
広範囲の軟骨欠損の場合には自家培養軟骨移植術が選択されます。(平成24年7月に日本で初めて承認された方法で平成25年4月より保険適用になりました。)
自家培養軟骨移植術とは、患者さん自身の軟骨を一部採取して培養することで増やし、欠損した軟骨部へ移植し戻す、という治療です。
リスホルムスコア(Lysholm Score)という膝の痛みや機能を判定する評価法があるのですが、ある研究によると、膝離断性骨軟骨炎の方に自家培養軟骨移植術を行うことでこのスコアが良くなり、症状が改善されたことが報告されています。(*7)
注意点
最後に注意点として、膝離断性骨軟骨炎は初期段階で適切な治療が行われないと、後遺症が残ってしまう可能性があります。
また、関節の軟骨に損傷や事故が起こっても、すぐに自覚できるような痛みが出ず、何ヵ月か経ってから急に痛みが現れることもあります。(*13)
それゆえ、症状が軽いうちに適切な診断をしてもらうために、膝に違和感や軽い疼痛を感じたらすぐに専門医に見てもらうようにしましょう。
参考論文
*2…濱 渉, 小林 晶, 王 享弘, 七森 和久「膝離断性骨軟骨炎の治療」整形外科と災害外科 41 巻 (1992) 2 号
*3…高橋 敦, 相澤 俊峰, 大沼 正宏, 井樋 栄二, 杉田 健彦, 魚住 弘明, 田代 茂義「膝離断性骨軟骨炎に対する組織学的検討」東北膝関節研究会会誌 2009 年 19 巻 p. 53-57
*4…村上 輝夫「関節軟骨組織構造・軟骨細胞と関節のトライボロジー特性」生体医工学44 巻 (2006) 4 号
*6…本山 達男, 井原 秀俊, 川嶌 眞人「大腿骨外側顆の離断性骨軟骨炎と外側円板状半月」
*8…武田 研, 緒方 公介, 原 道也, 星子 一郎, 江本 玄, 城島 宏, 西野 一郎, 高岸 宏「膝離断性骨軟骨炎の治療経験」整形外科と災害外科46 巻 (1997) 2 号
*10…岡田憲太郎, 北原 聡太「膝ロッキングで発症した滑膜骨軟骨腫症の 1 例」日職災医誌,61:268─272,201
*11…大石 和生, 津田 英一, 平賀 康晴, 山本 祐司, 前田 周吾, 石橋 恭之「スポーツ選手の離断性骨軟骨炎に対する吸収ピンによる骨軟骨片固定術の臨床成績」東北膝関節研究会会誌23 巻 (2014)
*12…工藤 智志, 水田 博志, 中村 英一, 高木 克公「関節軟骨欠損に対するモザイクプラスティ後の関節鏡所見」整形外科と災害外科51 巻 (2002) 4 号
*13…堤正二,中脇E美,山田栄,山本忠治,玉重亨「離断性骨軟骨炎の3 例」日本外科宝函 (1954), 23(3): 273-275