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股関節や膝に痛みを抱える男性

股関節

2022.5.11/最終更新日:2023.5.1

変形性股関節症の症状や原因、治療方法について医師が解説します

取材先の医師とクリニック

金治 有彦 先生

(藤田医科大学ばんたね病院 教授)

変形性股関節症とは

変形性股関節症とは、股関節でクッションの役割を果たしている関節軟骨がすり減ることによって関節に炎症が起きる疾患です。悪化すれば股関節が変形してゆき、股関節痛や機能障害を引き起こしたりすることもあります。

40〜50代になると、脚の付け根(股関節)に痛みを感じる方が多くなってきますが、その大半が変形性股関節症の発症によるものだといわれています。(*1)

 

股関節は「大腿骨(だいたいこつ)」という太ももの骨と、腰を支える「骨盤(こつばん)」で構成されており、大腿骨上部の骨頭(こっとう)というボール状の骨が、骨盤側の寛骨臼(かんこつきゅう)というお椀状の部分にはまり込むような形になっています。これらの骨頭と寛骨臼は、柔らかく弾力のある関節軟骨という組織で覆われ、関節を保護したり、関節の滑らかな動きを助ける役割を果たしています。

股関節の構造

変形性股関節症では、この関節軟骨がすり減ったり、変性(表面がけば立ち、保水力低下により弾力を失って脆くなる)したり、脆くなって剥がれた軟骨の断片が周辺組織を刺激し、炎症を起こして痛みを生じたり、骨頭や寛骨臼が変形してしまいます。

変形性股関節症は女性に比較的多く、発症年齢は40〜50歳が多いとされていますが、寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)といって、生まれつき骨頭に対して寛骨臼という股関節側で骨頭の屋根の役割をする部分が狭い方は、20代以下の若年でも痛みが出る場合があります。

厚生労働省の調査によると、股関節の痛みは、高齢者が自立した生活を送れなくなり、将来的に要介護になってしまう大きな原因の一つとされています(*2)。そうなってしまうことを避けるためにも、変形性股関節症という疾患を知り、早めの対策を行うことが重要です。

変形性股関節症の症状

変形性股関節症の主な症状としては、痛みと機能障害(関節の動きが制限されること)があげられます。痛みが生じる原因は、主に2つあります。

ひとつ目は、股関節への負担によりすり減った関節軟骨の断片が、滑膜(かつまく)という関節を覆っている膜を刺激し、炎症を引き起こす「滑膜炎(かつまくえん)」による痛みです。

そしてふたつ目の原因としては、股関節への過度な負担により関節軟骨の摩耗が進み、軟骨下骨(軟骨の下にある骨)が露出することによって痛みの信号を受信するレセプターが現れ、痛みを感じるようになります。

さらに症状が進行すると、最終的に骨が変形してしまい、痛みがさらに増して関節の動きも制限されるようになってしまうのです。

股関節に原因があるとしても痛む部位は股関節ではなく、膝やすね、ときには腰が痛む場合もあります。これは放散痛(ほうさんつう)といって、感覚をつかさどる神経の分布によって、痛みの原因部分以外の箇所に痛みを感じることがあるためです。膝痛や腰痛などの症状で当院(藤田医科大学ばんたね病院)にお越しになり、股関節の治療を行ったら膝や腰の症状が改善したといったこともあります。

次項より、変形性股関節症の病期とそれぞれの特徴について、さらに解説していきます。

股関節や膝に痛みを抱える男性

前期股関節症

前期股関節症は、変形性股関節症の第一段階で、関節軟骨はまだすり減っていないものの、変形性股関節症になる可能性が高い状態です。

寛骨臼形成不全などの疾患があり、変形性股関節症になりやすい状態の場合などが考えられます。

初期股関節症

変形性股関節症の初期段階では、起き上がったり立ち上がる際、歩き始める際などに脚の付け根(股関節)になんとなく違和感を感じたり、軽度の痛みを感じることがあります。

また、脚の付け根以外にも、お尻や太もも、膝や腰などに痛みやこわばりを感じる場合もあります。

進行期股関節症

変形性股関節症が進み進行期になると、痛みが慢性化して、関節も動きにくくなり、歩行や靴下を履く動作、足の爪切り、正座などを行うことが難しくなり、日常生活に支障をきたすようになります。さらには、安静にしていても常に脚の付け根が痛んだり、夜寝ていても痛みが続いたりします。

末期股関節症

変形性股関節症がさらに進行し末期になると、極度の痛みを感じるようになり、脚の付け根が伸びなくなり、膝が外に向かうようになります。筋力が落ちてくることによりお尻や太ももが細くなり、左右の脚の長さが違ってきます。

変形性股関節症の原因

先天的な要因

先述でもご説明したように、股関節は大腿骨上部の骨頭という球状の部分が、骨盤にあるお椀状の寛骨臼にはまり込むようになっています。これらの骨の表面は関節軟骨に覆われており、この軟骨が衝撃を和らげるクッションの役割をしつつ、滑らかな可動を実現しています。

この関節軟骨が摩耗してしまうと、痛みを生じたり、少しずつ骨が変形してしまい、変形性股関節症の発症に繋がってしまいます

中でも、先天的に骨頭の被覆(ひふく:覆われている部分)が少ない骨盤になっている方は、骨頭からかかる圧力を寛骨臼の狭い範囲で受け止めることになるため、負荷が集中しやすく、変形性股関節症を発症しやすい傾向があります。

日本国内で変形性股関節症の患者485例を対象にした研究では、全体の81%が、骨頭の被覆が少ない骨盤になっている「寛骨臼形成不全」であったことが報告されています。(*3, 4)また同研究で、80歳以上の変形性股関節症患者のうち、寛骨臼形成不全であったのは40%以下であったのに対し、40歳代の変形性股関節症患者で寛骨臼形成不全であったのは90%を占めていた(*3, 4)ことから、寛骨臼形成不全である場合は比較的若年のうちから変形性股関節症を発症する傾向にあることが分かります。

正常な股関節と臼蓋形成不全の股関節

その他にも、乳児期に脱臼や寛骨臼形成不全を起こすなど、股関節が不安定な状態になる「発育性股関節形成不全」の方も、のちに(40〜50代頃に)変形性股関節症を発症する原因となりやすいことが分かっています。(*1)

「発育性股関節形成不全」の患者40例48関節を対象に平均35年間を調査した研究では最終的に、前股関節症が36関節、初期股関節症が6関節、進行期股関節症が5関節、末期股関節症が1関節、確認されています。(*4, 5

また、日本における変形性股関節症患者は女性に多く、これは先述にてご説明してきたような変形性股関節症の大きな原因である「寛骨臼形成不全」や「発育性股関節形成不全」などが女性に多いことが影響しています。日本国内のX線(レントゲン)検査による変形性股関節症の有病率は1.0〜4.3%とされ、男性では0〜2.0%、女性では2.0〜7.5%となっています。(*4)

大腿骨と骨盤の衝突(大腿骨寛骨臼インピンジメント)

ここまで骨頭という大腿骨上部のボールに対して寛骨臼という骨盤のお椀が狭い場合に変形性股関節症に罹患しやすいというお話をしてきましたが、逆に、寛骨臼が骨頭を覆う範囲が広すぎる場合でも、股関節の痛みや障害を生じやすくなります

この特徴をお持ちの方の場合、大腿骨と骨盤との衝突(大腿骨寛骨臼インピンジメント)が起きやすくなり、関節唇(寛骨臼の縁にある幅15mm程の軟骨組織)損傷が生じてしまうことがあります。(*6) 関節唇には骨頭と寛骨臼のつながりを安定させる役割があるため、ここが損傷することで痛みや不安定さを感じるようになってしまいます。

大腿骨寛骨臼インピンジメントにより損傷する関節唇

また、股関節を動かす際に、変形性股関節症になりやすい動作の癖を持っている方もいます。腰(骨盤や腰椎)も連動して使う方をスパインユーザーといい、他の筋肉を使わず股関節のみを動かす癖のある方をヒップユーザーといいますが、この股関節のみを動かすヒップユーザーの方も大腿骨と骨盤との衝突(大腿骨寛骨臼インピンジメント)が起きやすいです。

股関節を動かす際に骨盤や腰椎を連動させて動かすことで、この大腿骨と骨盤との衝突(大腿骨寛骨臼インピンジメント)を起こしにくくし、変形性股関節症を予防することにも繋がります。

ただし、このような動きは、腹筋や背筋をはじめとした体幹の筋力がついていないとできませんので、後述にある「運動療法」でご紹介しているような運動を日頃から行い、筋力をつけておくことが必要です。

このほか、身体が硬いといった要因などもあわさって大腿骨と骨盤との衝突(大腿骨寛骨臼インピンジメント)が起きやすくなることでも、変形性股関節症に罹患するリスクが高まります。

重量物を持ち運ぶ作業・長時間の立ち仕事をしている

重量物を持ち運ぶ作業や、長時間の立ち仕事を行う職業についている方も、変形性股関節症になりやすい傾向にあります。

日本国内の人工股関節全置換術の待機患者114例を対象に調査を行った研究では、25kg以上や50kg以上の重量物を持ち上げる作業を行う仕事に就いていた方が、そうでない方よりも変形性股関節症となるリスクが高かったことが報告されています。(*4, 7

また同研究にて、最初に就いた仕事において2時間以上座って仕事を行っていたグループについて、立ち仕事を主に行うような仕事と比べて変形性股関節症となる割合が低かったことも報告されています。(*4, 7)このことから、座り仕事より立ち仕事をメインで行う職業の方が、変形性股関節症となるリスクが高いといえます。

重い荷物を持つ男性

肥満傾向にある

肥満も変形性股関節症の危険因子のひとつです。体重が増えれば、それだけ股関節にかかる負担も大きくなります。

肥満と変形性股関節症の関連性について報告している研究も多く、このことからも肥満傾向になることで変形性股関節症を発症するリスクが高くなることが分かります。(*4

肥満傾向な男性

過度なスポーツをしている

激しいスポーツや、股関節を大きく動かす動作のあるスポーツをしている場合も、激しい動きをする中で関節軟骨を損傷し、変形性股関節症になってしまうリスクがあります。

過度なスポーツをする女性

遺伝的な要因も

遺伝も変形性股関節症の発症リスクに影響があるとされています。

人工股関節全置換術を受けた変形性股関節症患者266例と、その兄弟姉妹1171例、変形性股関節症患者の配偶者376例を調査した研究では、対象患者の配偶者と比べて、兄弟姉妹が人工股関節置換術を受けた割合が有意に高かったことが報告されています。(*4, 8

母親と子供

ここまでにご紹介した要素に当てはまる方で、「変形性股関節症の症状」にあるような症状がある場合は、変形性股関節症である可能性がありますので、一度整形外科を受診することをおすすめします。

変形性股関節症の診断方法

変形性股関節症の診断では、まず問診や診察にて痛みの部位や関節の可動域(動く角度)、左右の脚の長さの差、歩き方(歩容:ほよう)などを確認したあと、X線(レントゲン)検査で診断を確定します。X線検査では、関節の隙間の大きさや骨のう胞(骨の空洞)・骨棘(こつきょく:棘のように突出した骨)の有無、関節の変形の程度などを確認します。

骨のう胞は、軟骨の痛んだ部分から関節液などが骨に侵入し、骨の溶解が起こることで穴が空いてしまう状態です。
また、骨棘とは、骨に加えられた過剰な刺激により骨組織が増殖し、トゲ状の異常な出っ張りとなったものです。

X線検査では骨の様子を確認できますが、軟骨などの軟部組織は確認できないため、必要に応じてCTやMRI検査なども行います。

変形性股関節症の診断を行う際は、上記の方法により変形性股関節症の進行度を判断し、患者の生活スタイルなども考慮しながら治療方針を決定します。

レントゲン写真を用いて説明する医師

股関節というのは、多くの筋肉や靭帯に囲われており、変形性股関節症になったとしても、直接的な股関節への症状が出にくく、変形性股関節症であることになかなか気づかない場合も多くあります。特に変形性股関節症の初期では、股関節以外のお尻や太もも、膝などに症状が出ることも多いです。

関節軟骨には血管や神経がなく、栄養の補給や老廃物の排出といった代謝があまり活発には行われません。そのため、すり減った関節軟骨の再生は難しく、関節軟骨の摩耗が一度始まってしまうと止めることができません。

ですから変形性股関節症の治療においては、早い段階で診察をし、進行を食い止めるための処置を早期に行うことが重要になります。

変形性股関節症が疑われる症状がある方は、早い段階で整形外科を受診し、必要な治療を受けるようにしましょう。

また、先に変形性股関節症の原因となる疾患としてご紹介した寛骨臼形成不全などの先天性疾患をお持ちの方や、変形性股関節症になりやすい条件に当てはまる方は、定期的に検査を受けることもおすすめします。

変形性股関節症の治療方法

変形性股関節症の治療方法は、主に「保存療法(主に手術以外の治療法)」と「手術療法」の2つに分かれています。

初期段階では主に、減量などの「生活指導」や、筋力トレーニングなどを行う「運動療法」、痛み止めなどの薬を使用する「薬物療法」などを行います。

これらの保存療法を行っても症状の改善がみられない場合や、痛みなどの症状が著しく、日常生活に支障をきたすような場合は手術を検討します。

ここからは、これらの治療法の詳細についてご紹介していきます。

保存療法

生活指導

変形性股関節症の治療では、股関節の関節軟骨のすり減りを遅らせ、症状をできるだけ進行させないようにすることが大切です。そのため、変形性股関節症治療のための生活指導では、股関節にかかる負荷をできるだけ減らすための指導を行います。

たとえば、

  • 重い物を持ち運びする作業はできるだけ避ける
  • 減量する
  • 歩くと痛みがある場合は杖やカートを使用する
  • 靴はかかとに弾力性のあるものを選ぶようにする

など、股関節への負荷を減らす生活を心がけることにより変形性股関節症の進行を防ぎ、症状の改善が見込める場合もあります。

また、和式から洋式への生活様式の変更も効果的です。和式の生活は床に敷いた布団から立ち上がる、和式トイレから立ち上がるなど、股関節に負担のかかる動きが比較的多いため、可能であれば洋式の生活に変更することが望ましいです。

解説する医師

運動療法

変形性股関節症の運動療法は、股関節周りのストレッチや筋力訓練、有酸素運動などを行うことで、股関節の痛みや機能改善を目指す治療法です。

運動療法は、変形性股関節症の症状がどの程度進行しているかに関わらず、重要な治療法です。

後述にて手術療法や再生医療・バイオセラピーなどの治療法をご紹介していますが、これらの治療を行うにあたっても、並行して運動療法を行うことが大切で、運動療法を行わなければせっかく行った治療の効果も半減してしまうとされています。

 

次項では運動療法の例として、まずは股関節の柔軟性を向上するためのストレッチ方法をご紹介します。

ストレッチは股関節周りの筋肉を緩めてリラックスさせることができます。それだけでなく、股関節の位置を矯正する効果も期待できるため、股関節が動きやすくなり、可動域(動かせる範囲)を広げることができます。

変形性股関節症予防・治療のためのストレッチ方法
      1. 床に座り、片脚のみあぐらをかくように曲げ、もう片脚は横に伸ばします。
      2. 背筋をしっかり伸ばし、曲げた脚にお腹をつけるように上半身を前に倒します。
      3. 1〜2を1回10秒間、10回程度繰り返しましょう。

変形性股関節症予防・治療のためのストレッチ方法

ストレッチによって股関節が楽に動かせるようになったところで、筋力トレーニングを行います。股関節まわりを鍛えることで、股関節を支える筋力をつけることができ、関節への負担を軽減することができます。

次に、股関節を支える筋力を鍛える運動のひとつとして、股関節の前側にある大腿四頭筋(だいたいしとうきん)を鍛える方法をご紹介します。

股関節の前の筋肉を鍛える運動方法
      1. 床に仰向けに横になり、膝を直角に曲げます。このとき左右の足はくっつけておきます。
      2. 片脚の膝を伸ばして上げられるところまで上げ、7〜8秒間静止したあと、ゆっくりと脚を元の位置まで戻します。
      3. もう片方の脚も2と同様に行います。
      4. 1〜3を10回、1日3セットを目安に行いましょう。

股関節の前の筋肉を鍛える運動方法

体幹トレーニング(プランク)

変形性股関節症の予防や症状改善のためには、プランクなどの体幹トレーニングを行うこともおすすめです。

先述の「大腿骨と骨盤の衝突(大腿骨寛骨臼インピンジメント)」にもあるように、体幹の筋力をつけることで、股関節だけを動かすのではなく、腰(骨盤や腰椎)を連動させた動きができるようになります。すると、股関節にかかる負担を減らすことができ、変形性股関節症の痛みの改善や予防効果が期待できます。

      1. うつ伏せの状態で、前腕・肘を床につけます。
      2. 腰を浮かせ、頭からかかとまでが真っ直ぐになるようにします。
      3. ゆっくり呼吸しながら、1分程度その状態をキープしましょう。
      4. 1〜3を、1日3セットを目安に行います。

体幹トレーニング(プランク)の方法

上記のプランクの他にも、片脚を上に上げてプランクを行ったり、サイドプランクを行うことも、体幹が鍛えられ、変形性股関節症の予防・症状改善効果が見込めます。

片脚上げプランク

(片脚上げプランク)

サイドプランク

(サイドプランク)

健康ゆすり

脚を小刻みにゆらす健康ゆすりも、変形性股関節症の痛みに効果的であるとされています。

そこでここでは、健康ゆすりのやり方をご紹介致します。

      1. 足裏がしっかり床につくように椅子に座ります。
      2. 片足(もしくは両足)のつま先を床につけたまま、かかとを小刻みに上下に揺らします。

健康ゆすりの方法

水泳・水中ウォーキング

変形性股関節症の方は、水泳や水中ウォーキングなども効果的です。水中では浮力が働きますので、股関節に負担がかかりづらく、かつ水の抵抗力により全身運動になるので、全身の筋肉を満遍なく鍛えることができます。

水中ウォーキングをしている女性

 

ただし、これらの運動療法もやりすぎれば、かえって関節を傷めて症状を進行させてしまうことになりかねません。運動の目安としては、翌日に疲労を残さない程度の運動を毎日続けるようにしましょう。

また、定期的に診察に行き、変形性股関節症の進行度や治療効果が出ているかどうか確認することも大切です。

薬物療法

変形性股関節症の薬物療法では、消炎鎮痛剤(抗炎症薬)などを用いて炎症を抑え、痛みを緩和することで、日常生活動作の改善を目指す治療法です。特に強い痛みが急に生じた場合や、変形性股関節症の進行期・末期で強い痛みがある場合は、こうした薬を用います。

薬は主に外用薬・内服薬・注射の3種類があります。

ただし、疼痛改善効果が期待できる薬も、ときには胃腸障害や腎臓障害、喘息発作などの副作用を起こす可能性があります。薬物療法による治療中は、こうした副作用が出ていないか、定期的に診察を行う必要があります。

また、薬の効果により痛みが治まったからといって、無理に関節を動かしてしまうと、変形性股関節症の症状を進行させてしまう可能性があるため、注意が必要です。医師から指示された薬の用量・用法は守り、運動やトレーニングは無理のない範囲で慎重に行うようにしましょう。

内服薬

手術療法

保存療法でも症状が改善しない場合や、病状がかなり進行している場合は、下記のような手術療法が検討されます。

しかし、手術を行うかどうかや、どの手術を行うかは、痛みの程度や生活の不便さ、治療を受ける方の仕事や年齢など、さまざまな要素を考慮して決定します。

手術をしている様子

股関節鏡手術

股関節鏡手術とは、股関節の周辺の皮膚を2〜3箇所、1cm程度切開し、そこから直径5mm程の管の先に小さなカメラの付いた関節鏡と手術器具を挿入して行う手術です。これにより、股関節軟骨が損傷して毛羽立った繊維を除去(クリーニング)したり、亀裂部位の縫合などを行います。

股関節鏡手術の方法は、関節の状態によって異なり、状況によって主に下記の4種類の手法から選択されます。(*9

1. 関節唇部分切除術

この手法では、関節唇(寛骨臼の縁にある幅15mm程の軟骨組織)の損傷した部分や、周囲で以上に増殖した滑膜(関節を包んでいる膜)を切除します。関節唇が断裂している場合は、縫合を行うこともあります。

2. 大腿骨寛骨臼インピンジメントに対する鏡視下手術

先述でも少し触れましたが、大腿骨寛骨臼インピンジメントとは、大腿骨と骨盤との衝突のことをいいます。

この大腿骨と骨盤との衝突が起きている場合、関節軟骨の損傷が起きやすくなりますので、関節鏡手術によって寛骨臼や大腿骨頭の一部を切除し、ぶつからないようにします。

3. 関節デブリドマン

炎症を起こした滑膜(かつまく:関節を包んでいる膜)や軟骨を切除します。

4. 関節授動術

上記の関節デブリドマンに加えて、骨棘などを削り、滑らかに整えます。さらに腸腰筋(ちょうようきん:上半身と下半身をつなぐ筋肉)の腱を切除します。

この股関節鏡手術では、摩耗などにより剥がれた股関節内の軟骨片などを取り除くことで股関節内の炎症が治まり、痛みなどの諸症状の改善が期待できます。

股関節鏡手術の手術時間は約2〜3時間、手術後は2〜4週間程度の入院をすることが一般的です。ただし、進行期以降の変形性股関節症の場合などは、入院期間が1ヶ月以上になることもあります。(*6

この手術を行うメリットとしては、傷跡が小さく目立たないで済むため、身体への負担が軽いことや、手術による筋肉への影響がほとんどないことがあげられます。

これに対しデメリットとしては効果の持続期間が限られるため、再手術が必要な場合もあることがあげられます。

また、術後は股関節周りに腫れやしびれが生じることがありますが、これは股関節保護のため股関節内に水を充満させて手術を行うことによるもので、これらの症状は時間が立てば治まります。

骨切り術

骨切り術とは、股関節近くの骨を切って、変形した股関節の形を整える手術方法です。

股関節の骨盤側を切り取る方法と、大腿骨側を切り取る方法がありますが、骨盤側を切り取る寛骨臼回転骨切り術が代表的な手術方法です。

寛骨臼回転骨切り術は、骨盤側にある寛骨臼をくり抜き、角度や位置を調整することで、寛骨臼の体重を支える(大腿骨頭をカバーする)範囲を増やし、狭い範囲に集中していた負担を分散させることで、関節軟骨がすり減りにくくします。その結果、変形性股関節症の症状緩和や進行予防が期待できます。

変形性股関節症の骨切り術

この手術方法は、自身の関節や軟骨を温存できる関節温存術で、関節がそれほど傷んでいない方や比較的若い方が適応です。この手術を行うには、関節軟骨がある程度残っている(軽度〜中等度の変形性股関節症である)必要がありますが、術後は健康な股関節とほぼ同程度動かせるようになります。

この手術にかかる手術時間は約2時間、入院期間は約1〜2ヶ月程度です。

人工股関節置換術

人工股関節置換術は、傷んだ股関節を人工股関節(インプラント)に置き換える手術です。人工股関節はカップと骨頭、ステム(骨頭を大腿骨に固定するためのもの)から構成されていて、カップや骨頭部分はコバルトクロムやセラミックなどの金属、カップと骨頭の間で関節面として擦れ合う部分には超高分子量ポリエチレンが用いられているものが多いです。ステムは金属でできています。

人工股関節

人工股関節置換術は、変形性股関節症が進行し、安静にしていても痛みを感じる場合や、関節の変形が進んだ進行期や末期の方が適応の手術です。

また、人工股関節の耐用年数は20年程度であることから、基本的には60歳以上の方に適した手術になります。

術後はほとんどの場合で痛みが改善し、左右の脚の長さのずれも少なくなるため、歩行などの日常的な動作がしやすくなり、快適な生活が送れるようになります。

ただし、手術を受けるにあたっては、下記のようなリスクもあげられます。

術後感染 細菌により膿んでしまう状態。手術後1年〜数年経ってから人工関節の周囲に細菌が感染したり、術後に一見関係なく思える虫歯や膀胱炎、胆嚢炎、扁桃炎などが原因で細菌感染が起こることもあります。
脱臼 手術後に人工関節が外れてしまうこと。脚の付け根を内側にひねるような動作は脱臼を起こしやすいです。
深部静脈血栓症 下肢の静脈内に血のかたまり(血栓)ができること。
人工関節の経年劣化 人工関節は長期に渡って体重を支えるうちに、部品がすり減り、それによって生じたポリエチレンなどの摩耗粉により起きた異物反応で、骨が溶けてしまうことがあります。その結果、人工股関節の固定が緩んでしまうことがあります。(*2

再生医療やバイオセラピー

ここまで保存療法と手術療法についてご紹介してきましたが、近年ではPRP療法やASC治療といった再生医療なども新たな治療の選択肢となってきています。

特に、保存療法を受けても満足な効果は出ないが、手術には抵抗があるという方は、原則入院不要で身体への負担も少ない再生医療をご検討いただくことがあります。

また、これらの治療は抗炎症効果が見込めるため、特に痛みの主な原因が炎症(滑膜炎)の方に適した治療法になります。

PRP療法

PRP(多血小板血漿)療法とは、血液に含まれる血小板由来の成長因子(組織修復能力を持つ)を利用した治療法です。ゴルフのタイガー・ウッズ選手や、野球の大谷翔平選手が怪我の治療を行う際に活用した治療法としても知られています。

PRP療法は、患者自身から採血を行い、その血液を遠心分離、血小板を高濃度抽出した多血小板血漿(PRP)を作製し、患部に注入する治療です。

怪我をすると最初は出血と痛みを生じますが、しばらくするとカサブタになり痛みも引いた、という経験は誰しもあると思います。これには血小板の持つ成長因子の働きが大きく関与しているとされ、PRP療法はこの血小板の働きを関節症に応用した治療です。患部に注射することで炎症を抑え、痛みの軽減が見込めます。

PFC-FD™療法

PFC-FD™療法は、ゴルフのタイガー・ウッズ選手や、野球の大谷翔平選手が怪我の治療を行う際に活用したPRP療法をさらに応用した治療法です。PFC-FD™療法は元野球選手の松坂大輔さんも施術を受けられています。

松坂大輔41歳が振り返る“何度ものケガとどう向き合ってきたか?”「10年前トミー・ジョン手術でメスを入れたら…ヒジの靭帯が無かった」 Sports Graphic Number Web

PRP療法は、原則、採血した血液を遠心分離して血小板濃度の高い液体を作製し患部に注入します。PFC-FD™療法はこのPRP療法で使用される液体に加工を加え、血小板内部の成長因子を取り出し、さらに活性化を施して患部に注射します。

PRP療法同様、PFC-FD™療法も抗炎症・疼痛軽減作用とその持続性が報告されています。股関節ではなく膝関節での研究ですが、306の膝に施術したところ、術後12ヶ月が経過しても施術前より痛みが楽になったという報告もあります。(*10)

また、PRP療法と比較して、投与後の痛みが出にくいことも報告されています。(*11

ASC(脂肪由来幹細胞)治療

ASC治療は、脂肪由来の幹細胞を活用した治療法です。この治療法では、皮下脂肪から間葉系幹細胞を採取し、センターで幹細胞を培養したのちに患部に注射することで、炎症の抑制や痛みの改善効果が期待できます。

これらのPRP療法やPFC-FD療法、ASC治療のメリットとしては、患者自身の組織を用いるため、副作用がほとんどないことや、治療が注射で完結するため、入院などの必要もなく、簡便に行えることなどが挙げられます。

ただしデメリットとしては、保険適用外(自由診療)になるため、費用は自費になることや、PRPに含まれる成長因子などの量によって効果に個人差があること、施術後数日間は痛みや腫れなどが伴うことが挙げられます。

注射

変形性股関節症にお悩みの方へ

変形性股関節症を治療すると、痛みがよくなって日常生活の質の向上が期待できます。これまで「歳のせいだから」と諦めていた趣味や旅行などができるようになるかもしれません。

最近では、人工股関節置換術などの手術の成績も近年の医学技術発展を追い風に良好であり、さらにはPRP療法やPFC-FD™療法、ASC治療などの低侵襲治療である”第三の治療”も選択肢として登場しています。このように「手術が怖い」という方にも適した様々な治療選択肢がありますので、股関節に痛みのある方、痛みは無いけれど動かしづらさや違和感のある方などは、一度整形外科を受診なさり、医師にご相談ください。

それぞれの患者様にベストな治療法を選択していただくためのお手伝いができれば幸いです。変形性股関節症については当院のこちらのページでも解説していますので、より詳細情報をお知りになりたい方は御覧ください。

 

参考文献

*1…新井 貴(2020)「なぜ痛いどう治す 股関節痛に負けない!「変形性股関節症」の最新治療法 日本人300万人が悩み中」,『サンデー毎日』2020年1月5日号, p.38-41, 毎日新聞出版.

*2…杉山 肇ほか(2012).『名医が語る最新・最良の治療 変形性関節症(股関節・膝関節)』.法研.

*3…Jingushi, S., et al. (2010). Multiinstitutional epidemiological study regarding osteoarthritis of the hip in Japan. Journal of Orthopaedic Science, 15(5), 626-631.

*4…日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,変形性股関節症診療ガイドライン策定委員会(編)(2016)『変形性股関節症診療ガイドライン』

https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/osteoarthritis-of-the-hip/osteoarthritis-of-the-hip.pdf

*5…中塚 洋一ほか(1995).「30歳代の先天性股関節脱臼後の変股症の検討」,『Hip Joint』21, 156-61.

*6…吉見 淳司(2020)「股関節の構造と痛みが生じる原因」,『コーチングクリニック』2020年12月号, p.4-7, ベースボール・マガジン社.

*7…Yoshimura, N., et al. (2000). Occupational lifting is associated with hip osteoarthritis: a Japanese case-control study. The Journal of rheumatology, 27(2), 434-440.

*8…Chitnavis, J., et al. (1997). Genetic influences in end-stage osteoarthritis: sibling risks of hip and knee replacement for idiopathic osteoarthritis. The Journal of bone and joint surgery. British volume, 79(4), 660-664.

*9…柳本 繁(監修)(2014).『スーパー図解 変形性股関節症・膝関節症』.法研.

*10…大鶴 任彦 et al. 変形性膝関節症に対するBiologic healing専門クリニックの実際とエビデンス構築.  -基礎と臨床 2020年9月号 特集:幹細胞・PRP・衝撃波−Biologic healingのエビデンス. 関節外科. 2020年9月. vol.39 No.9. 945-954

*11…二木 康夫(2020).「PRPの膝関節内注入療法」『 臨床スポーツ医学』37(4), 478-481.

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