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膝痛改善に対するステロイド注射の効果について
皆さんは「ステロイド」という言葉をご存じでしょうか?効き目が強い薬として聞いたことのある方が多いでしょう。
本記事では、さまざまな疾患の治療に使われているステロイドがどのようなものなのかをご紹介し、さらにステロイド注射として膝に投与する場合の膝痛への効果や、一方で無視できない副作用と注意点について解説していきます。
ステロイドとは
ステロイドは、体内でも生成される副腎皮質ホルモンの一つとして身体の中で様々な生理的機能の調節を担っており、身体の健康維持にとても欠かせないホルモンになります。身体での機能としては、糖代謝、脂質代謝、たんぱく代謝、水・電解質代謝、骨・カルシウム代謝、免疫抑制作用、抗炎症作用などの他に神経系や循環器系などにもかかわっています。
このステロイド(副腎皮質ホルモン)を医療用の薬剤として応用したものが「ステロイド薬」になります。このステロイド薬は、炎症の抑制や痛みの緩和など症状改善を促す効果があり、広範な医療領域で用いられています。
ステロイド注射とは
ステロイド注射は、主に変形性膝関節症などによる膝の痛みを改善するための保存療法の一つとして用いられます。具体的には、注射器を用いてステロイド薬を膝関節に直接注入することで炎症や痛みを軽減します。(*1)これにより、立ったり座ったり歩いたりなどの日常動作での膝の曲げ伸ばし機能の向上を目指すという治療法になります。
使用されるタイミングは、関節水腫による膝の痛みや腫れの症状がひどい場合に膝の水を抜き、ステロイド注射を打ちます。関節水腫とは、疾患によって組織が炎症を起こした際に身体の反応として関節に水が溜まって腫れる状態を指します。ステロイド注射には、この関節水腫の腫れや炎症、それに伴う痛みを抑える効果があると言われています。
その他にステロイド注射を使用する場面としては、ヒアルロン酸注射やリハビリ、電気治療、湿布といった治療の効果が充分でなく、膝の痛みや炎症が非常に強い状態のときに実施を考慮されることがあります。
ただし、ステロイド薬は非常に強力な薬剤の一つとして知られており、治療をする際は使用方法に注意しなければなりません。
膝の痛みに対してステロイド注射を検討されている方は、後述する注射の実施頻度や副作用、リスクについても考慮する必要があります。
また、ステロイド注射は一時的な痛み止めのようなものであり、膝の痛みやその原因を根本的に治すことは難しいとされています。
ヒアルロン酸注射とステロイド注射の違い
ヒアルロン酸注射とステロイド注射は、どちらも膝痛改善に有効とされる関節内注射ですが、どのように違うのか、ここではそれぞれの役割や働きをご紹介いたします。
ヒアルロン酸注射
ヒアルロン酸注射は、変形性膝関節症の初期〜中期の治療によく用いられ、関節を滑らかに動かすための潤滑油の機能と衝撃吸収をサポートするクッション材の役割があります。
ヒアルロン酸注射だけで痛みがかなり良くなり、症状が治まる方もおられますが、あくまでも上記の役割を持つにとどまります。一方、ヒアルロン酸はもともと関節に存在している成分でもあり副作用はほとんどないとされています。
ヒアルロン酸注射については、こちらの記事でも詳しく解説していますので是非ご覧ください。
ステロイド注射
一方、ステロイド注射は、非常に強力な薬剤で、炎症の抑制や痛みの軽減、緩和に強力な即効性を期待できます。ステロイド注射は強力な鎮痛効果が最大のメリットですが、強力ゆえに副作用も強く、何度も繰り返し注射することがはばかられます。
ステロイド注射の効果について
ステロイド注射を受ける際に、ほとんどの人が最も求める効果は「膝の痛みや悩みを解消したい」という切実な願いがあると思います。
ステロイド注射には、膝の悩みに対し、下記のような効果が期待できます。(*1)
鎮痛作用
ステロイド注射は強力な鎮痛効果があるため、日常生活の膝に負担がかかる場面(階段昇降時や歩行時、立ち上がる時など)での膝痛軽減が期待できます。
ステロイド剤は、開発当初から「痛みを軽減する物質である」ことが明らかにされ、関節リウマチ(痛みを引き起こす疾患)の治療薬として用いられたのが起源になります。1950年には、ステロイド剤が治療薬として劇的な効果を発揮することが高く評価され、開発者であるヘンチ・ケンダル・ライヒシュタインの3名がノーベル賞を受賞するほどでした。(*2)
変形性関節症の国際学会(OARIS)によるガイドラインでは、同じ鎮痛作用のあるヒアルロン酸注射よりもステロイド注射のほうが膝痛に対して早く疼痛抑制効果が得られると評価されています。
「変形性膝関節症治療の国内外のガイドライン」(川口浩 著)において、変形性膝関節症に対するステロイド注射とヒアルロン酸注射の鎮痛作用を4つのケースで比較した以下の表では、ヒアルロン酸注射は“Uncertain(治療として不明瞭)、Not Appropriate(適切な治療ではない)”と評価を受け、“Benefit(鎮痛効果)”は10ポイント中3~5ポイントとなり、すべてに効果が見込めるわけではないという結果になりました。
一方で、ステロイド注射は全てのケースにおいて“Appropriate(適切な治療)”と評価を受け、“Benefit(鎮痛効果)”も10ポイント中5~6ポイント以上という結果になり、ヒアルロン酸注射よりも強力であることが分かります。(*3)
図1 ステロイドvs.ヒアルロン酸関節内注射の比較(文献3より引用)
図2 OARSIガイドライン2014年最新版(非手術療法)におけるAppropriate評価の治療法(文献3より引用)膝以外のOAの有無、合併症の有無により4グループに層別化している。
ステロイド注射以外で“Appropriate(適切な治療)”と評価された治療法には、経口非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や外用 NSAIDs、アセトアミノフェン、カプサイシン、デュロキセチン、歩行補助具、温熱療法があります。ただし、これらの治療法は変形性膝関節症とその他の疾患との組み合わせによって適切かどうかが異なります。一方、ステロイド注射ではほとんど全ての症例で鎮痛作用が見込めます。(*3)
このように、ステロイド注射は主に炎症性疾患には幅広く効果があります。ただし、外傷、つまり怪我である関節内骨折や靭帯損傷に対してはステロイド注射の効果は現れないと言われています。
効果の持続期間
変形性膝関節症に対するステロイド注射の効果は、1回の注射で1~2週間は膝の疼痛に大幅な軽減が期待できます。その後、3~4週間は効果が持続する可能性もありますが、それ以上続く可能性は低いとする論文もあります。(*1)
前述でもお話した通り、ステロイド注射は主に関節内に水が溜まる「関節水腫」に用いることが多く、腫れの改善と疼痛軽減効果は、より長い持続時間が期待できます。
また、活動性が高くよく動かれる方は効果が短くなる傾向にあり、そうでない方では効果が長くなる傾向もあります。
いずれにしても効果の現れ方や持続性には個人差があります。
ステロイド注射の効果を最大限に活かす
膝の痛みの代表である変形性膝関節症などに対するステロイド注射の効果持続期間は長くなく、痛みが再発する可能性が高いです。(*1) 一方、ステロイド注射は効果期間は短いものの、炎症と痛みを抑える効果が高く、膝関節の可動域(膝の曲げ伸ばし角度)の改善が見込めます。
変形性膝関節症では膝関節が動きにくくなっていることが多いので、ステロイド注射のこの特性を活かし、治療として極めて重要なリハビリや筋力トレーニングの効果を引き出せるよう、膝関節をある程度動かせるように整えることがステロイド注射を最大限に活用する方法と言えます。
変形性膝関節症の他の治療法やリハビリテーションについては、以下の記事でも解説しています。
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前述の具体的な効果を踏まえて、次にいくつか、ステロイド注射の対象となる代表的な疾患を挙げます。
ステロイド注射の対象疾患
ステロイド注射の対象疾患 |
変形性膝関節症 半月板損傷 関節リウマチ 偽痛風 |
ステロイド注射は、膝痛に対して素早い症状改善が期待できる治療法です。以下では、ステロイド注射の対象となる疾患について、とくに膝の痛みに関する疾患をご紹介します。
変形性膝関節症
変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)は、主に加齢を原因として軟骨が擦り減り、日常動作において膝に痛みや違和感を引き起こす疾患です。進行すると、膝を深く曲げることができなくなり、最終的には移動で杖や車椅子を使用する必要が生じたり、寝ていても痛くなるなど自立した生活が困難になります。深刻化すれば手術が必要です。
有病者は、日本でも約2500万人いると言われており、多くは中高年の女性に発症しています。末期の状態にならないようにすることがとても大切です。
通常はヒアルロン酸、痛み止めなどで痛みを抑え、その間にリハビリに取り組むことで悪化を防ぎますが、それらでは不十分であり、痛みがあまりに強い場合にステロイド注射が選択されることがあります。
他にも、変形性膝関節症が生活に支障をきたすほど手術が必要な状態であれば、ステロイド注射の副作用を気にして注射せずに痛みに耐えるよりも、ステロイド注射を行い鎮痛作用に期待するほうが良い場合もあります。
調査概要:松代膝検診 2013年(新潟県松代町の住民膝検診において、1979年より7年ごとに縦断的に調査。2013年度は、1,426名に対して調査。)
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半月板損傷
半月板損傷は、主に激しいスポーツや加齢を原因として、膝関節の大腿骨と脛骨の間にある“C”の型をした線維軟骨(半月板)に亀裂や断裂が生じ、激痛や膝の曲げ伸ばしに支障をきたす疾患です。断裂の種類はいくつかありますが、断裂の程度が重度の場合や膝自体を動かせなくなるロッキングという症状が出ている場合には手術が必要になることもあります。
半月板損傷を放置していると、半月板の衝撃吸収能力が損なわれ、前述でご紹介した変形性膝関節症などの別の疾患へと繋がることもあります。
ステロイド注射を行うタイミングとしては、膝に水がたまる関節水腫の症状があると同時に強い痛みが現れている場合に用いられます。一方で、痛みがなく腫れだけがある場合、もしくは痛みはあるが腫れがない場合は、基本的にステロイド注射は打ちません。なぜなら、ステロイド注射の副作用である感染症リスクが高まるためです。
少しの痛みで膝の引っかかり感がなく手術に至らない状態の場合であれば、痛みを抑えることを目的にステロイド注射を打つこともあり、その後は痛みが抑えられている間にリハビリや筋力トレーニングを行い膝の曲げ伸ばしの改善に努めるという治療の選択肢もあります。
とはいえ、半月板は損傷すると自然治癒がほとんど見込めないので、ステロイド注射へ進む前に半月板の縫合や切除と言った「手術」へ進むことが多いです。
関節リウマチ
関節リウマチは、全身の関節に炎症が見られる疾患で、免疫異常で自らの身体を攻撃してしまい、関節に痛みや腫れ、変形を引き起こす疾患です。そのほか特徴として、左右対称の関節に炎症などの症状が見られたり(例:左右の膝がどちらも腫れる)、朝の関節のこわばり(炎症によって寝ている間に関節に水が溜まりむくむことが原因)も挙げられます。
進行すると、軟骨や骨の破壊が始まり最終的には関節そのものが破壊され動かなくなるために寝たきりもしくは車椅子生活となります。
ステロイド注射を実施するタイミングは、関節に水が溜まる関節水腫がひどい場合や、痛みが強い場合の症状緩和のために用いられます。前述したヒアルロン酸注射などで効果が見込めないので、ステロイド注射を行うケースが比較的多いです。
ステロイド注射を打つ際は、副作用である感染さえ起きなければ2週に1度打つこともあり、通常よりも打つ頻度が多いとされています。
偽痛風
偽痛風は、高齢者に多いとされるピロリン酸カルシウム結晶の関節内への沈着が原因で、膝関節や肩関節、足関節、手関節に激痛や腫れ、発赤が生じる発作です。痛風と同じような症状が同じような部位で生じますが、原因となる物質が違うため「“偽”痛風」と称されます。
偽痛風の急性的な痛みを改善するために、ステロイド注射や患部冷却、解熱性鎮痛薬(NSAIDs)が有効とされています。
ステロイド注射は痛風のもとになる尿酸値を高めてしまう副作用があります。偽痛風は名前は似ていますが痛風とは違い、尿酸値、糖尿病と関係なく生じる疾患です。よって、偽痛風で、検査で尿酸値に異常がなければ、基本的には問題なくステロイド注射を打つことがあります。
ただし、原因や症状によって適切な治療法は異なるため、ステロイド注射による治療が適切かどうかは医師の診断と判断に基づきます。
次は、ステロイド注射の実施頻度についてです。
ステロイド注射の実施頻度
ステロイド注射を実施する頻度は、一般的に膝の痛みで代表的な変形性膝関節症の場合は1回注射したら最低1~2ヵ月程の間隔をあけます。ステロイド注射には副作用がいくつか存在する為、あまりに頻回に注射することは避けたほうがいいとされています。また、ステロイド注射を短期間で3回以上打ってしまうと、ステロイドによって腱(けん=筋肉と骨を繋ぐひも状の強靭な組織)がもろくなり切れてしまう可能性や、強い副作用を引き起こすリスクがあります。
先述の通り、ステロイド注射は非常に強力な効果が期待できるものです。しかし、強力なぶんステロイドには強い副作用が確認されており、何度も、そして頻繁に繰り返しステロイドを投与すると、これからご紹介する重篤な副作用によって逆効果になりかねません。
ステロイド注射の副作用について
ステロイド注射にはいくつかの副作用が確認されています。関節を脆くする効果があり、その他に感染症リスクや糖尿病リスクを高めてしまったり、果ては変形性膝関節症をむしろ悪化させてしまうおそれもあります。
長期投与あるいは短期間での頻回投与によるリスク |
骨壊死 骨粗鬆症 軟骨破壊 感染症 糖尿病 変形性膝関節症の進行 |
骨壊死
骨壊死(こつえし)とは、骨への血液供給が低下し骨の組織が壊死する状態を指します。症状としては、痛みや動作への制限、足を引きずることなどが挙げられます。
ステロイド剤には骨の維持機能(骨代謝機能)に異常をもたらす性質があります。長期投与または短期間で大量投与すると、この骨壊死リスクを高めます。
厚生労働省の発表では、ステロイドの大量投与で最も多い症状は大腿骨頭壊死(太ももの骨の先端部が血流の低下により壊死すること)と挙げられており、年間発生数は約2000人~3000人とも言われています。(*4)
骨粗鬆症
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は、骨量(骨密度)の減少で骨が脆くなり骨折しやすくなるという疾患です。こちらもステロイド薬の長期投与や短期間の大量投与によって、骨代謝や血液供給が低下して骨が脆くなり、骨粗鬆症になる可能性があります。
日本骨代謝学会のガイドラインによると、長期間ステロイド剤投与を受けている患者の骨折率は30%~50%と報告されています。投与後は骨折リスクを減らすために栄養バランスのとれた食事や筋力維持・増強するための運動、骨密度の低下を抑える薬物療法を推奨されています。(*5)
軟骨破壊
軟骨破壊は、ステロイド注射の長期投与が原因で骨がもろくなるために引き起こされると言われています。
軟骨の足場・土台である骨がもろくなり微細な骨折が起き、軟骨破壊(剥離)となります。軟骨に限らず他の関節組織にも悪影響を及ぼす可能性があります。
感染症
ステロイドは感染するリスクが高いことでも知られています(易感染性:いかんせんせい)。特に関節内注射による感染症は化膿性関節炎と言われ、関節内に細菌が直接侵入し、化膿してしまう状態を指します。
感染症はステロイドに限らず注射などの体内へ器具を挿入する医療行為ではそのリスクが存在しますが、ステロイド注射は他の注射と比べ感染症リスクが高く健康状態への注意が必要です。
糖尿病
糖尿病は、ステロイド薬の血糖値を上昇させる作用により高血糖をきたし発症すると言われます。症状は個人差がありますが、主に体のだるさや尿量の増加、喉の渇き、体重の減少などが見られます。
このように副作用で糖尿病が起きる可能性もありますが、既に糖尿病の方がステロイド注射を打ってしまった場合には、前述でご説明した化膿性膝関節炎(かのうせいひざかんせつえん=関節に膿がたまる状態)になるリスクがあります。
ステロイド注射には、これらのリスクが起こりうることを理解し、医師の診断のもと適切な頻度で注射を行いましょう。
変形性膝関節症の進行
ステロイド関節内注射には、ご紹介してきたように即効性や除痛に効果があり、変形性膝関節症においても疼痛軽減を目的として投与されることがあることは先述のとおりです。
一方で、日本整形外科学会がまとめた変形性膝関節症についてのガイドラインにおいて、ステロイドの関節内注射の副作用として以下のような注意喚起もされています。
- 軟骨損傷
- 変形性膝関節症の進行
ここまでご紹介してきた、副作用として想定される疾患においてご説明してきたように、ステロイドは膝の痛みを除去する一方で、膝そのものを脆くしてしまう恐れがあるのです。
つまり、中高年以降の女性の膝痛における代表格である変形性膝関節症に対してステロイド関節内注射を行う場合、頻度にもよりますが、かえって変形性膝関節症を助長させるリスクもある、ということが示唆されています。(*6)
「膝が痛くヒアルロン酸は効かない。」「ステロイドをもう何度か打ってしまった。」「手術はしたくない。」このようなお悩みをお持ちの方に、再生医療やその応用技術が第3の選択肢として選ばれ始めています。
保存療法と手術の間を埋める第3の選択肢「再生医療や関連技術」
ステロイド注射は膝痛に対して素早い鎮痛効果を発揮する保存療法のひとつですが、これまでご紹介してきたように副作用のリスクが大きいことも事実です。
副作用である骨を脆くする作用や感染症などのリスクを鑑みてステロイド注射を迷う場合に、再生医療やその関連技術も検討することがあります。
これらは原則手術・入院不要で、ステロイド注射と同様に注射による治療法のため、変形性膝関節症の症状が進行し手術をしたくないという方に適しています。
再生医療
膝痛に対する再生医療として広まっているものに「PRP療法」があります。患者さん自身の血液を活用する治療です。
血液を遠心分離すると血小板の濃い液体が得られます。血小板には抗炎症・鎮痛作用を持つ成分が含まれており、これらは変形性膝関節症をはじめとした膝の痛みに効果的です。
アメリカではヒアルロン酸よりも推奨度が高い治療として広まっており、野球の大谷翔平選手も受けたことがあります。ただし、大谷選手のように、最終的に手術を行うことになるケースもあります。
再生医療関連技術
上述のPRP療法を応用した技術に「PFC-FD™療法」があります。PRPでは血液から抽出した血小板を多量に含んだ液体を用いますが、PFC-FD™療法ではPRPの血小板を活性化させ、血小板内部の成長因子そのものを取り出します。
PFC-FD™療法はPRP療法同様に膝痛軽減や変形性膝関節症に用いた場合は膝の曲げ伸ばし機能改善が期待できます。
患者自身の血液を活用する性質上、まれに投与後1週間腫れることが報告されていますがステロイド注射のような“骨が脆くなる”といった重篤な副作用は確認されていません。
また、個人差はあるものの、1年間のあいだ効果が持続することも確認されており(*7)、うまく効けば比較的長い期間痛みの軽減が見込めます。
これら再生医療は自由診療で全額自己負担であり、また、ステロイドなどの薬剤と比べ効果に個人差がありある論文では59%の患者に有効だったという結果が見られるなど(*7)、デメリットも存在しますがもしステロイドを打つか迷う方は一度お近くで提供している医療機関でご相談されてみると良いでしょう。
まとめ
ステロイド注射は、強力な鎮痛作用により変形性膝関節症や関節リウマチなどの疼痛軽減に効果が期待できます。とくに膝関節に水がたまる関節水腫に対しては優れた効果を発揮します。
一方で、ステロイド注射は強い副作用もあり、骨を脆くしたりさまざまな副作用を引き起こすリスクもあり、実施には慎重な判断が必要です。
副作用が起こらないようにするためにも、医師の診断のもと長期間・短期間での頻回投与は避け、事前に血液検査で糖尿病が隠れていないか確認するなど、投与に際して細心の注意を払うことをお勧めします。
膝痛に悩みステロイド注射を検討されている方は、適切な治療を行うためにも、まずは医療機関を受診し担当医師にお気軽にご相談いただければと思います。
※脚注
*1…Marshall Godwin, Martin Dawes : Intra-articular steroid injections for painful knees. Systematic review with meta-analysis, Can Fam Physician. 2004 Feb; 50: 241-8.
https://www.cfp.ca/content/cfp/50/2/241.full.pdf (2023.7.19 参照)
*2…1950年のノーベル生理学・医学賞「副腎皮質のホルモン、その構造、生物学的効果に 関する発見」
https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/1950/summary/ (2023.6.21 参照)
*3…川口 浩. 変形性関節症治療の国内外のガイドライン. 日関病誌 35(1):1~9,2016.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsjd/35/1/35_1/_pdf (2023.6.23 参照)
*4…厚生労働省、「重篤副作用疾患別対応マニュアル 特発性大腿骨頭壊死症」.2023年3月.
h ttps://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1m05.pdf (2023.6.12 参照)
*5…日本骨代謝学会.「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン:2014年改訂版」
ht tp://jsbmr.umin.jp/guide/pdf/gioguideline.pdf (2023.6.12 参照)
*6…日本整形外科学会監修、日本整形外科学会診療ガイドライン委員会・変形性膝関節症診 療ガイドライン策定委員会編:変形性膝関節症診療ガイドライン 2023、南江堂、2023、164p.
*7…Tadahiko Ohtsuru et al. 「Freeze-dried noncoagulating platelet-derived factor concentrate is a safe and effective treatment for early knee osteoarthritis」 Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy
https://link.springer.com/article/10.1007/s00167-023-07414-y
※PFC-FDはセルソース株式会社の保有する商標です。