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半月板損傷とは
半月板は膝関節の大腿骨と脛骨の間にある線維軟骨です。膝関節の内側と外側に1つずつ存在し、どちらもローマ字の「C」に似た形をしています。
この2つの半月板が膝関節を安定させる役割を果たすだけでなく、関節にかかる衝撃を吸収して荷重を分散させることで周囲の軟骨・骨を保護する働きを持つと同時に、膝のなめらかな動作を可能にしています。
半月板損傷とは、これらの半月板になんらかの要因で亀裂が生じたり、ひどい場合には断裂した状態を指します。
半月板の損傷の形状は以下の通りです。
- 縦断裂…半月板の形にそるように縦に亀裂が入り、断裂が進行するとバケツ断裂となる可能性があります。
- 横断裂…半月板の外縁部に向けて分断するような亀裂が入り、完全に裂けてしまう状態も起こり得ます。
- 水平断裂…半月板に水平方向にヨコからスライスされたような亀裂が入る状態です。
- バケツ断裂…半月板に穴をあけたような状態となり、膝にロッキングを起こす原因として最も多い損傷になります。膝関節でいうロッキングとは、膝の曲げ伸ばしに一定の可動域制限がかかり、膝が動かせなくなることを言います。
- フラップ状断裂…ささくれのような断裂を起こし、弁状部分が関節の間に挟みこまれることで引っかかり感や激しい痛みを引き起こします。
基本的には、一度亀裂が入ると自然治癒は難しく、損傷の状態によっては放置していると周囲の関節軟骨を傷つけてしまう可能性があるため早めに医療機関を受診しましょう。
半月板はレントゲンでは映らない組織ですので、損傷しているかどうかを確認するにはMRI検査が必要になります。
MRI検査での半月板損傷の診断率は、80%~90%程度と言われています。(*1)
半月板損傷の症状
半月板の損傷により、強い痛みやいくつかの症状が現れることがあります。ここでは半月板損傷の症状についてご紹介します。
半月板損傷の症状① 膝の曲げ伸ばしに支障
半月板損傷の症状のひとつとして、膝を曲げたり伸ばしたりしにくくなること(膝関節の可動域の制限)が挙げられます。
膝を完全に曲げ切ることや伸ばしきることが困難になり、膝を動かそうとする際に激しい痛みを伴う場合があります。
また、本人にはパソコンのマウスをクリックしたときの音のようなクリック音が聞こえたり、ゴリッ・キリッとした感覚が走ることもあります。
重症の場合には、断裂した半月板の一部が関節の隙間に入り込むことにより激痛を伴って関節が動かせなくなる“ロッキング”という症状が現れることもあります。膝関節のロッキングは、膝の曲げ伸ばしに一定の可動域制限がかかり、膝が動かせなくなる状態です。
半月板損傷の症状② 関節の腫脹
半月板損傷による他の症状として、繰り返す腫脹(水腫)が挙げられます。
ここまで述べてきた症状が該当する場合、半月板損傷が疑われますので最寄りの整形外科を受診するようにしましょう。
半月板損傷は治りにくい?
また、半月板損傷は治りにくいことも特徴です。というのも、半月板の外周約1/3は血行がありますが、それ以外の部分は血行がないため、修復に必要な栄養素が運ばれにくいのです。よって、半月板損傷は放置してしまうと治りにくいという特徴があります。
仮に放置した場合でも、痛みなどの症状は徐々に軽減する可能性がありますが、半月板損傷そのものが修復することはほとんどありません。
それだけでなく、半月板損傷を放置したままでいると膝の安定性や荷重に対する衝撃吸収力が損なわれ、年月の経過とともに変形性膝関節症など別の疾患につながることもあります。
半月板損傷が疑われる症状がある場合は、早めに病院へ受診するようにしましょう。
半月板損傷の原因
半月板損傷は、膝関節の動作に著しい障害をもたらし、日常生活にも支障をきたす状態です。ここでは、どのように損傷が生じるのかを解説します。
スポーツ
半月板損傷の原因で最も多いのは激しいスポーツ活動です。たとえば急なターンやストップなどで膝をひねると、急激に強い力が加わり、半月板がその負荷に耐えきれず損傷につながります。
また、バレーボールやバスケットボール、陸上競技など、膝に継続的に負担がかかるスポーツや、ラグビー、アメリカンフットボールといった他の選手との接触が頻繁に起こるスポーツも半月板損傷の原因となる可能性があります。
以上の原因に対して、医療機関が発表した手術治療の実績においては、スポーツへの復帰状況は若年者に多く27症例中30%はレベルが下がっていたとしています。治療後の運動レベルが下がっていない方や手術(切除術)を行った人は、復帰率が高いという結果が出ています。(*2)
こちらは手術による実績ですが、手術を避けたい方や入院ができない方は痛みを改善するために、後述でもご紹介する再生医療技術を使った注射による治療もご検討いただけます。
日帰りで治療を行うことができる為、痛みを改善し早期復帰を希望するスポーツ選手などにも活用されています。
加齢
スポーツ以外の原因としては加齢が挙げられます。半月板損傷を患う65歳以上の高齢者を対象とした調査では、痛みの自覚症状は以下のような場面で現れるとされています。(*3)
半月板損傷による疼痛の発症場面 |
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年齢を重ねるにつれて半月板が変性し、弾力性が落ちてクッションとしての役割が衰えます。
そうなるとこれまでなんともなかったような体重負荷でも損傷しやすくなります。たとえば、普通に立ち上がろうとするくらいの動作でも半月板損傷につながることもあるのです。
高齢になるにつれて、いままで問題なくできていた動作でも注意して行うようにしましょう。勢いよく踏み込まないように気をつけたり、階段は手すりを使用して上り下りをするなど、日常生活で半月板を守るように心がけましょう。
予防として、大腿四頭筋という太ももの筋肉を鍛えることで膝関節を支える力を強め、半月板にかかる体重負荷を筋肉に分散させることが重要です。
また、膝以外でも体幹や股関節、足関節のストレッチなども半月板を守るために有効です。
半月板損傷の注射による治療について
半月板損傷をおこした際、損傷の程度や種類に応じて半月板縫合手術や損傷部位の切除術などを行い、その後リハビリを行いながら膝の機能を取り戻して行くことが一般的です。
ですが最近では、注射による新しい治療法が注目されつつあります。この治療法は損傷が比較的軽い場合に限定されるものの、入院が必要ないという簡便さから、スポーツ選手を中心に多く取り入れられています。
ここでは自己血液を活用した注射による治療について紹介します。
PRP(多血小板血漿)療法
怪我をしたときにカサブタができ、しばらくして傷が治ったという経験は誰しもあるでしょう。それは血液に含まれる血小板の働きによるものですが、この働きを活用する治療方法がPRP(多血小板血漿)療法です。
PRP療法では、自身の血液から採取した血小板を濃縮した抗炎症作用と修復作用のある液体を患部に注射します。
半月板損傷に対するPRP療法の効果は、PRPを関節内に注入することによって炎症が沈静化し、組織修復作用が起こることで疼痛が緩和、関節の腫脹も軽減されるなど、関節内の環境が改善されます。
その結果、リハビリをはじめとした治療をスムーズに行えるため、比較的早い症状改善が期待できます。
様々な研究によれば、半月板損傷に対してPRP療法を行うことによる医学的な根拠はまだまだ乏しいとされます。一方、大きな優位性は認められないものの一定の期待が持てるとする論文が出ています。(*4)
また、30名の思春期の半月板損傷患者にPRPを投与した研究では、治療前には3%しか「Good」ではなかった膝が、治療後には76.7%の患者が「Excellent」ないしは「Good」と感じ、10点満点での痛みの測定では7.73から2.0に減少するなど、期待が持てる結果も得られつつあり(*5)、半月板損傷に対する血液を用いた再生医療には期待できる報告も見られます。
PRPを応用したPFC-FD療法
PRPを応用した技術「PFC-FD™療法」では、血液から遠心分離して得られる血小板の濃い液体(PRP)を更に加工、血小板の中に存在する成長因子を抽出し、その上で凍結乾燥を施します。これにより長期的な保管が可能となり、PRPよりも計画的な治療が可能となります。
半月板損傷は血流の少ない関節内で生じます。つまり血液由来の栄養素が届きづらいと言えます。そこに血液由来の成長因子を直接注入することで半月板にとって良い環境を作ることがPFC-FD™療法といえます。
自分の体組織から作られた成分を注入する治療であるため、アレルギーなどの副作用の可能性が低いことが特徴です。
ただし、自由診療のため治療費は各医療機関ごとに違います。また、どんな状況でも活用できるわけではなく、半月板損傷が激しい場合にはやはり手術が必要になることもあります。半月板損傷の程度(断裂や逸脱など)や、合併している変形性膝関節症や骨髄浮腫の程度、個々の筋力やリハビリに対する姿勢などによって効果に個人差があります。
当院でPFC-FD™療法を受けられた秋本真吾選手の記事も参考になりますのでぜひ御覧ください。
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト The answer:半月板損傷=手術」じゃない “第3の治療”再生医療でスポーツ界の常識は変わるか
まとめ
まずは整形外科でしっかり診断をつけてもらい、そのうえで選択肢を考えましょう。
重症でロッキング(膝が動かせなくなる)などの症状がある場合には手術が必要となることも多いですが、しっかりと医師と相談し、メリット・デメリットを考えて納得できる治療を選択することが重要です。その中にはPRP・PFC-FD™という選択肢もあるので、手術の前に一つの選択肢として考えてみても良いでしょう。
当記事をお読みの方は以下の記事もおすすめです
注釈
*3…高齢者の半月板損傷の検討
*4…Ian D. Hutchinson et al. Can Platelet-Rich Plasma Enhance Anterior Cruciate Ligament and Meniscal Repair? Thieme Medical Publishers 333 Seventh Avenue, New York, NY 10001, USA.
*5…Popescu, M.B.; Carp, M.; Tevanov, I.; Nahoi, C.A.; Stratila, M.A.; Haram, O.M.; Ulici, A. Isolated Meniscus Tears in Adolescent Patients Treated with Platelet-Rich Plasma Intra-articular Injections: 3-Month Clinical Outcome. BioMed Res. Int. 2020, 2020,1–5.