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2020.8.7/最終更新日:2023.8.23

ひざ等への再生医療「脂肪由来幹細胞(ASC)治療」と幹細胞について解説

本記事では、再生医療や幹細胞の説明と合わせて、自身の脂肪組織から幹細胞を培養して軟骨などの再生や疼痛改善を目指す「脂肪由来幹細胞(ASC)治療」をご紹介します。

脂肪由来幹細胞(ASC)治療とは

脂肪由来幹細胞(ASC)治療とは、再生医療である幹細胞治療の一種です。本来は自然治癒が望めない軟骨などの組織が損傷した際、修復が期待できる再生医療の一つ(*1)として実用化が始まっています(*2)。

脂肪由来幹細胞(ASC)治療は再生医療等安全性確保法のもと行われる再生医療であり、第二種再生医療等技術に相当します。申請書が厚生労働省に受理された医療機関のみが行うことのできる治療です。

 

再生医療として使用される脂肪由来幹細胞(ASC)は皮下脂肪組織から採取した幹細胞です。幹細胞とは、下記2つの能力を併せ持つ細胞のことです。

 

 

人間が多機能な人体へと成長できるのも、再生医療として使用できるこの幹細胞の多分化能と自己複製能があるためです(*3)。脂肪由来幹細胞(ASC)治療は、再生医療の分野において重要な「細胞を作り出す力」を損傷部位に活用することで、損傷した組織の修復が期待できる再生医療です。

 

ES細胞との違い

ES細胞は受精卵の胚から作られる細胞です。胚は個体の最も初期の成長段階にある、生命の種のような存在で、ほとんどすべての体組織へと分化が可能な万能細胞といえます。ですが、ES細胞はその作製過程ゆえ、生命を摘みとる必要があるという倫理的課題を孕んでいます。よって実用化には高いハードルがあるのが現状です。

脂肪由来幹細胞(ASC)は患者自身の体の一部を採取して作製できるため、こういった倫理的課題はクリアしています。

iPS細胞との違い

iPS細胞は、京都大学の山中教授によって発見された人工多能性幹細胞です。こちらはES細胞と違い、患者自身の細胞を一部採取して作製されることになるので、ES細胞のような倫理的な課題をクリアしています。

ただし、iPS細胞はその分化能力の高さからどんな細胞にもなれるがゆえに発癌性も認められています。現在研究が進められていますが実用化までまだ時間がかかりそうです。(2020年8月現在)

これに対し、脂肪由来幹細胞(ASC)は脂肪組織にある幹細胞で、脂肪・軟骨・骨・血管など、どの種類の細胞に変化するかがある程度絞りこまれており、癌化することは少ないと言われています。よって現段階ではiPS細胞よりも実用性が高いと言えます。

再生医療 ASC 幹細胞

脂肪由来細胞(ASC)治療の適応疾患

ASC治療は現在、主に「変形性膝関節症」などの関節疾患を対象に活用されています。軟骨の摩耗・骨同士の擦れが生じ、炎症のある関節疾患に使用されています。

「従来の治療効果に満足していないが、手術は受けたくない」という方を中心に活用が始まっています。下記ボタンから再生医療「脂肪由来幹細胞(ASC)治療」を提供している医院を探すことが出来ます。

脂肪由来幹細胞(ASC)治療に期待される効果

①抗炎症作用

脂肪由来細胞(ASC)の属する間葉系幹細胞(体性幹細胞)には、抗炎症作用があり、痛みや腫れを抑える効果があります。現在は変形性膝関節症による膝の痛みなどに効果を発揮することがわかりつつあります。これは、間葉系幹細胞が分泌する様々な因子(サイトカイン)が、炎症の原因となっている過剰な免疫反応を抑制する働きがあるからと推察されています。

とくに、制御性T細胞と呼ばれる白血球の一種は、脂肪由来幹細胞(ASC)の注入によってその数が増えて働き、炎症反応を和らげる中心的な役割を果たすと考えられています。

また、炎症によって傷んだ組織についても、間葉系幹細胞によって活性化された様々な細胞群が組織修復に働きかけ、その効果は従来の治療に比べ持続性があることが分かっています。

変形性膝関節症と診断された男性33膝、女性74膝を対象に脂肪由来細胞(ASC)の注射前と注射後12か月間(3か月ごと)の治療効果についての調査が行われました。

膝関節の評価スコア(KOOS)を用いて「症状・痛み・日常生活・スポーツ活動・生活の質」が、それぞれの期間でどのくらい症状改善されているか比較したところ、痛みは注射前49.4点→12か月後64.8点と注射前よりも15.4点改善しており症状・日常生活・スポーツ活動・生活の質においても12.6/11.9/17.7/18.7点とすべてで改善が見られました。*4

ASC治療 効果 KOOS

引用:脂肪組織由来培養間葉系幹細胞(ASC)療法におけるknee injury and osteoarthritis outcome score(KOOS)の経時的推移.KOOSの値は注射前と比較してすべての経過観察時において有意に改善していた。大鶴任彦 他、関節外科 Vol.39(9)33-42.2020. 

②組織の修復促進

脂肪由来幹細胞(ASC)は骨・軟骨・脂肪組織や血管などへの分化能力があることがわかりつつあり、関節で失われた組織の回復が期待できます。例えば変形性膝関節症によって消失した膝関節の軟骨などの再生が確認できたとする事例もあります。

このように再生医療「脂肪由来幹細胞(ASC)治療」は主に変形性膝関節症などの関節症治療に活用されており、軟骨などの組織の再生が期待されます。ただし、注入すればそれだけで組織が修復するわけではありません。組織がきちんと形成されるには「その場所を保護する必要性」を体に伝える必要があります。そのためには、注入後にその部位に負荷をかけるストレッチや運動を行うことが非常に大切です。

つまり、再生医療「脂肪由来幹細胞(ASC)治療」とは、培養・加工した幹細胞を注入するだけで完了というものではなく、上述したような抗炎症作用によって痛みが軽減されている間にリハビリを行うことで効果的に組織の修復を目指す再生医療なのです。

 

脂肪由来幹細胞(ASC)治療のメリット

①安全性が高い

患者様ご自身の細胞を培養して注入するという施術のため、アレルギーや拒絶反応のリスクが低いことが特徴です。

②施術が簡便

お腹の表面を覆っている皮下脂肪から採取した細胞を使います。投与するときは注射で完了しますので、身体への負担が少なく済みます。

脂肪由来幹細胞(ASC)治療のデメリット

①自由診療となるため、費用は自己負担

自由診療になるため、費用は各医療機関ごとに異なり、通常費用は100万円を超える治療です。正確な費用については各医療機関に直接ご確認ください。

②効果には個人差がある

新しい治療であるため、作用の仕組みなどについては未だ未解明な部分が多いと言わざるを得ません。つまり、思ったように効果が出ない可能性があると言わざるをえません。とくに失われた軟骨組織の修復などについてはかなり個人差のある領域になります。

期待される効果や反応は患部の状態などによって変わります。患部の状態を診察してもらい、再生医療「脂肪由来幹細胞(ASC)治療」で効果が見込めそうか、医師に確認してもらうと良いでしょう。

③未発見のリスク

ご自身の脂肪を利用した治療法のため、拒否反応やアレルギーリスクは非常に少ないと考えられ、深刻な有害事象は報告されていません。

とはいえ、新しい治療ということもあり臨床データがまだ少なく、今後新たなリスクが発見される可能性がないわけではありません

脂肪由来幹細胞(ASC)治療の流れ

厚生労働省の認可を受けている施設で加工を行った場合の再生医療「脂肪由来幹細胞(ASC)治療」の流れをご説明いたします。このうち患者様が医療機関へお越しいただく必要があるのは「①採取」と「⑤患部へ注入」のみになっています。

① 採取

再生医療「脂肪由来幹細胞(ASC)治療」を提供している医療機関にて、ご自身の皮下脂肪組織を採取します。20mLほどが必要となります。

当日は局部麻酔を行い、専用の針で脂肪組織を採取します。基本的に入院は不要です。その後、採取した脂肪組織は厚生労働省認可の細胞加工センターに輸送されます。

 

 

② 抽出

採取した脂肪組織には幹細胞以外の組織も付着しているので、幹細胞のみを培養できるように分離・抽出します。

コラゲナーゼやサーモライシンを配合した酵素溶液で処理することにより、幹細胞を含んだ細胞群を抽出します。この段階では幹細胞以外にも血球や脂肪組織由来細胞群が含まれています。

脂肪組織の塊から必要な細胞群だけを抽出する工程であり、これにより幹細胞のみを培養できる準備が完了します。

 

③ 培養

抽出した細胞群を、培養液で培養し、脂肪由来幹細胞のみを増殖させます。

培養液とは、一般的に人間の体液に近い液体であり、アミノ酸、糖分、成長因子など、幹細胞にとっての栄養を豊富に含んでいます。この培養液で幹細胞の数を200~300倍に増やすことができます。

培養中は顕微鏡下で細胞の状態を監視し、増殖の度合いを常にモニタリングしています。そのスピードに応じて、培養液を定期的に(概ね3日ごとに)交換、常に幹細胞が栄養を摂取できるようにしています。

 

④ 凍結保存

培養が完了したら、凍結保存用チューブ(※プラスチック製の液化窒素での冷却に耐えられる専用容器)に小分けにされます。凍結保存用チューブ1本につき500万個の幹細胞が入っており、1回の脂肪採取につき6本以上が作製されます。

この凍結保存用チューブを超低温(-150℃の液体窒素が発生させる冷気によって保存用チューブを冷やす方法)の液体窒素タンク内に置いて保存します。これによって長期的な保管が可能となり、患者様は好きなタイミングで治療を受けることができます。

 

⑤ 患部へ注入

脂肪の採取からおよそ6週間後、培養された幹細胞は、脂肪採取を行った医療機関へ輸送され、それぞれの医療機関にて患者様へ注射を行います。

 

再生医療「脂肪由来幹細胞(ASC)治療」を受けるには

下記のボタンから再生医療「脂肪由来幹細胞(ASC)治療」を提供している医院を検索することが可能です。「自宅近くに提供医院があるか知りたい」「もっと治療の詳細を知りたい」「まずは医師の説明を受けたい」という方はぜひご覧いただき、お電話にて実際に治療についてお問い合わせ下さい。

 

また、ASC治療を含むバイオセラピーについては、こちらのページでもご紹介しています。
ASC治療に興味のある方は、ぜひこちらもご覧ください。

ひざ関節の悩みに手術のいらない新治療を。

 

※脚注

*1…関西医科大学雑誌 59巻 (2007) 2-4 号「ヒト脂肪組織由来幹細胞の分離と脂肪・骨・軟骨への分化  ー幹細胞の供給源としての脂肪組織ー」覚道 奈津子 et al.

*2…臨床スポーツ医学 Vol.37 No.7 「変形性膝関節症に対する再生医療を利用した保存療法の実際 – PRP・間葉系幹細胞・セルフリー療法 -」桑沢綾乃,仁平高太郎

*3…バイオメカニズム学会誌 32巻 (2008) 2 号「成長・発育のバイオメカニズム 総論」島津 晃

* 4…大鶴任彦 他、関節外科 Vol.39(9)33-42.2020. 特集 幹細胞・PRP・衝撃波-Biologic healingのエビデンス.変形性膝関節症に対するBiologic healing専門クリニックの実際とエビデンス構築

※参考文献

厚生労働省「「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」の改正等について  2-(2)ヒト幹細胞等の定義について

Japanese Journal of Transfusion and Cell Therapy, Vol. 59. No. 3 59(3):450―456, 2013脂肪組織由来間葉系幹細胞を利用した細胞療法―現状と展望― 中山 享之 加藤 栄史

「間葉系幹細胞の新しい機能 -免疫調節細胞としての間葉系幹細胞-」Kentaro Akiyama,et al 347ページ

Tong Ming Liu et al:  Identification of Common Pathways Mediating Differentiation of Bone Marrow- and Adipose Tissue-Derived Human Mesenchymal Stem Cells into Three Mesenchymal Lineages

 

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