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半月板損傷のリハビリについて
太ももとすねの骨の間に存在する半月板は内側(内側半月板)と外側(外側半月板)があり、脚の曲げ伸ばしをサポートする大切な組織です。なんらかの原因で、この半月板が傷ついてしまうことを半月板損傷といい、膝に様々な障害をもたらします。
半月板の損傷度に応じて治療期間やリハビリの内容は異なります。今回は半月板損傷のリハビリ・治療方法について説明します。
半月板損傷とは
半月板損傷とは、膝に存在する半月板という組織が損傷・断裂してしまった状態を指します。
この半月板とは太ももとすねの骨の間にある軟骨で、膝関節を安定させるとともに衝撃緩和のためのクッションのような働きをしており、膝を保護する重要な組織です。そのため、この重要な組織が損傷する半月板損傷は膝に様々な弊害をもたらします。
半月板損傷の原因
半月板損傷の原因について解説します。
半月板損傷は、激しいスポーツ活動によって膝に過剰な負荷がかかった場合や、交通事故による膝への強い衝撃などによって起こります。また、強い衝撃ではなくとも、加齢などによって半月板が変性して衰えている場合には、階段をのぼるといった軽い日常動作が原因で損傷することもあります(変性断裂といいます)。
半月板は一般的には三日月型(半月型)をしていますが、外側半月板では、三日月型ではなく大きな満月型(円板状半月板)の人が僅かにいらっしゃいます。日本人では9%くらいの頻度で外側半月板が円板状半月板であると言われています。
こうした先天性の特徴をお持ちの場合、主に小児期に半月板損傷を起こしやすく、膝の引っかかり感や、伸びにくい等の症状として自覚されることがあります。
半月板損傷の症状
半月板を損傷すると、どのような症状が現れるかを解説します。
半月板損傷における代表的な症状は、膝の曲げ伸ばしの際の痛みや引っかかり感(キャッチング)であり、歩くことすら辛い状態になることも少なくありません。特に階段の上り下りなどで膝に大きな負荷がかかると、痛みをより一層強く感じたり、膝にコリコリとした違和感を覚えることがあります。
さらに、損傷の程度が重い場合には断裂した半月板が関節の隙間に引っかかり、一定角度以上に膝の曲げ伸ばしができなくなる「ロッキング」という症状が起こることもあります。
半月板損傷のリハビリの方法
半月板損傷の治療には、「保存療法」と「手術療法」があります。
「保存療法」とは半月板損傷の程度が比較的軽度でロッキング症状がない場合、また、加齢に伴う変性断裂(加齢で半月板が擦り切れる症状)の場合、患者さんが手術を希望しないなどの場合に選択される治療です。手術などの外科的方法によらずに症状改善を目指す治療法になります。
消炎鎮痛剤などの飲み薬の処方の他、リハビリを含む運動療法などを行う治療です。中高年の変性断裂の場合はヒアルロン酸注射による治療も行う場合があります。
「手術療法」とは、損傷した半月板に外科的にアプローチして根本的な原因の対処を目指す治療法です。「手術療法」には損傷した半月板の一部を切除する「切除術」と、損傷・断裂した半月板を縫合する「縫合術」の2つがあります。手術はさきほど説明した症状(ロッキング)が見られたり、保存療法を行っても痛みや症状が一向に改善しないような場合に検討されます。
どの治療を行うかによってリハビリを行うタイミングは異なるものの、基本的に順序やメニューは変わりません。順番に解説していきます。
関節可動域訓練
まずは膝関節の可動域(膝の曲げ伸ばしの角度)を充分に回復するための運動に取り組みます。
半月板損傷を起こすと、炎症によって膝関節の動きが鈍くなってしまったり、損傷によって組織同士が癒着して関節が動きづらくなったり、膝を保護するための装具固定を一定期間実施することで関節が固まって動かなくなってしまうこと(拘縮)があります。そうなると膝の曲げ伸ばしが困難になり、半月板損傷後の日常生活に支障が生じます。
よって、膝の曲げ伸ばし角度を元に戻していくためには可動域を獲得するための訓練(可動域訓練)が必要になります。可動域訓練の開始時期は膝を曲げる角度によって開始時期が異なります。それぞれの開始時期は以下のようになります。
90°までの可動域訓練
- 保存療法:治療開始と同時期
- 切除術後:術翌日
- 縫合術後:約2週間後
120°までの可動域訓練
- 保存療法:約1週間後
- 切除術後:約1週間後
- 縫合術後:約4週間後
完全に曲げきる可動域訓練
- 保存療法:約4週間後
- 切除術後:約4週間後
- 縫合術後:約8週間後
ストレッチ(1) 太もも前側を伸ばすストレッチ
片方の膝を曲げて伸ばします。右側を伸ばしたい場合は右手で右足を引き上げ、右足のつま先をお尻の方へ引き寄せてください。太ももの前面に存在する大腿四頭筋を伸ばすことができ、膝を曲げるときの角度を回復させることができます。
ストレッチ(2) すね前側とふくらはぎを伸ばすストレッチ
つま先を、奥の方へ伸ばすことで前面(前脛骨筋)を、タオルなどを用いて手前へ引き寄せることで後面(ふくらはぎ)を伸ばすことができます。すねの前面と後面をほぐすことで膝関節の可動域改善に繋がります。
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また、膝関節以外にも股関節や足関節もほぐす必要があります。
なぜなら、股関節や足関節が硬いと、膝関節に負荷が集中してしまい、半月板損傷をしている膝にとってはダメージになるからです。ふくらはぎの筋肉、太もも後面のハムストリング、同じく太もも前面の大腿四頭筋は、それぞれ足関節・股関節につながっています。例えば、ふくらはぎの筋肉は足関節付近のアキレス腱から大腿骨後面に伸びており、太もも後面のハムストリングは股関節の後ろの坐骨から脛骨後面に伸びていて、太もも前面の大腿四頭筋は腸骨から脛骨前面につながっています。
したがって、膝関節のストレッチを行うためには足関節や股関節のストレッチも一緒に行うことが重要となりますので、股関節と足関節のストレッチもご紹介します。
ストレッチ(3) 股関節のストレッチ
股関節のストレッチには、床に座った状態で両方の足裏を合わせてかかとをお尻に近づける方法があります。
ストレッチ(4) 足関節のストレッチ
足関節のストレッチには、床に座った状態で片方の足首を自分の手で回します。
筋力トレーニング
関節可動域訓練のあと、もしくは同時並行で、膝周辺の筋力を増強するトレーニングに取り組みます。
半月板は膝にかかる体重を支えて体を安定させる働きを担っています。半月板損傷とはつまり、その体を支え安定させる働きが損なわれているということであり、他の組織で半月板の代わりに体を支え安定させる必要があります。その代表的な方法は膝周辺の筋力を強化し、半月板の代わりに筋力で体を支える、という方法です。
半月板損傷の再発防止という観点からも膝周辺の筋力を強化することは重要ですので、取り組むようにしましょう。
筋力トレーニング(1) セッティング
半月板損傷のリハビリにおいて、最初の筋力トレーニングは「セッティング」と言われるトレーニングです。
半月板への負荷を減らすため、体重を支える膝周辺の筋肉を鍛えます。特に大腿四頭筋の筋力トレーニングが重要です。最初は比較的軽い負荷であるセッティングから開始します。
セッティングのやり方は、床に膝を伸ばして座り、太ももを床に押し付けるイメージで負荷をかけます。ひざ下に丸めたタオルを入れて、タオルを押しつぶすイメージで取り組むとさらに効果的です。
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この”セッティング”に取り組む時期は、以下が目安となります。
- 保存療法:治療開始と同時期
- 切除術後:術翌日から
- 縫合術後:術翌日から
筋力トレーニング(2)下肢伸展拳上(SLR:straight leg raising)
横になり、膝を伸ばして脚を上げる運動です。太もも前面の大腿四頭筋を鍛えることができます。最初は無荷重で行い、徐々にゴムチューブなどを用いて負荷を掛けて取り組みます。
この”下肢伸展拳上(SLR)”に取り組む時期は、以下が目安となります。
- 保存療法:治療開始と同時期
- 切除術後:術翌日から
- 縫合術後:術翌日から
筋力トレーニング(3) 膝伸展抵抗運動
脚にゴムチューブを掛けるなど、抵抗を受けながら膝を曲げた状態から伸ばしていくトレーニングです。このトレーニングも太もも前面の大腿四頭筋を鍛えることができます。
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この”膝伸展抵抗運動”に取り組む時期は、以下が目安となります。
- 保存療法:治療開始から約1週間後
- 切除術後:約1週間後
- 縫合術後:約4週間後
筋力トレーニング(4) 両脚スクワット
両脚でスクワットを行います。このトレーニングによって膝全体をバランスよく鍛えることができます。
スクワットは膝に負担がかかりますので、時期に応じて曲げる角度を調整します。60°までのスクワットと90°までのスクワットに分かれます。
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この”両脚スクワット”に取り組む時期は、以下が目安となります。
- 保存療法:治療開始後1週間程度
- 切除術後:約1~4週間後
- 縫合術後:約8週間後
筋力トレーニング(5) 片脚スクワット
片方の脚でスクワットを行います。両脚で行うスクワットに比べてより強い負荷がかかるので、より効果的に膝周辺の筋肉を鍛えることができます。
この”片脚スクワット”に取り組む時期は、以下が目安となります。
- 保存療法:治療開始後、約4週間程度
- 切除術後:約4週間後
- 縫合術後:約8週間後
筋力トレーニング(6) ニーベンディングウォーク
ニーベンディングウォークとは、スクワットの体制で歩くトレーニングのことです。
動きも入る実践的なトレーニングになり、筋力トレーニングの最終段階と言えます。
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この”ニーベンディングウォーク”に取り組む時期は、以下が目安となります。
- 保存療法:治療開始後、約4週間程度
- 切除術後:約4週間後
- 縫合術後:約8週間後
これらの筋力トレーニングは、およそ10〜30回位で1セットになる目安ですが、半月板損傷の程度や回復速度には個人差があるため、一概には言えません。医師や理学療法士の指導のもと、ご自身にとって適切な回数やペースを確認しながら行います。
バランストレーニング
膝のバランス感覚を取り戻すリハビリテーションを、バランストレーニングといいます。
前述の通り、半月板には膝関節を安定させる機能があるため、半月板を損傷していると膝のバランスが取りにくく、不安定感を覚えることがあります。膝のバランス感覚が損なわれたままだとさらなる怪我に繋がる恐れもありますので、バランストレーニングは半月板損傷から回復するための重要なトレーニングです。また、身体感覚を回復するためにも必要です。
このバランストレーニングでは足場の不安定なバランスボードやバランスディスクを使用します。乗っているだけでバランス感覚を鍛えることができますし、発展形としてはそれらの上に乗ってスクワットや足挙げ運動を行うこともあります。ただし不安定な足場でトレーニングを行うことから、転倒防止のために病院などで実施しないと危険です。このトレーニングによって半月板損傷に伴う膝の不安定感を低減させることが可能です。
目安としては、1日に10~20分ほど取組むと良いでしょう。
この”バランストレーニング”に取り組む時期は、以下が目安となります。
- 保存療法
- 両脚:約1週間後
- 片脚:約4週間後
- 切除術後
- 両脚:約1週間後
- 片脚:約4週間後
- 縫合術後
- 両脚:約4週間後
- 片脚:約8週間後
アスレチックリハビリテーション
半月板損傷のリハビリにおける最終段階はアスレチックリハビリテーションです。スポーツに復帰することを見据えた、運動を交えたリハビリテーションのことです。
筋力が戻って、膝関節可動域を獲得でき、痛みも取れて、いよいよスポーツに戻る準備、というリハビリです。
まずはジョギングに取り組んで様子を見ます。まっすぐ走り、痛みはないか確認を行います。この”ジョギング”に取り組みだす時期は以下のようになっています。
- 保存療法:約4週間後
- 切除術後:約4週間後
- 縫合術後:約8週間後〜3ヶ月後
ジョギングが問題ないようであれば、より本格的なスポーツ動作を行います。カッティング動作、ラダートレーニング、両脚ジャンプ、片脚ジャンプ、などに取り組みます。これらが問題ないようであれば、最終的に復帰したい競技特有の動作を徐々に行います。
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ここで大切なことは無理をしないことです。トレーナーや理学療法士の指導の元、適切なメニューを管理してもらいましょう。過信して無理なトレーニングを行うと、半月板損傷が悪化しかねません。
これらの”本格的なスポーツ動作”に取り組む時期は下記のようになっています。
- 保存療法:約8週間後
- 切除術後:約8週間後
- 縫合術後:約3ヶ月後
まとめ
半月板損傷はスポーツに取り組んでいる人を中心に発生します。早くに治療を開始し、焦らずにトレーニングやストレッチに取り組むことが再発防止に繋がりますので、思い当たる点があればまずは医師の診察を受けるようにしましょう。
軟骨組織は治りにくく、それをカバーするような治療がリハビリです。手術療法の場合は、原因は取り除けていますが手術をして完了ではなくリハビリによってカバーする必要があります。保存療法の場合は手術療法と違い根本的な原因を外科的方法で対処していないので、より一層リハビリの重要性は高いと言えるでしょう。
競技にすぐに復帰できないのでは?という心理的負担もかかるとは思いますが、無理をしてスポーツに取り組むと余計に悪化したり、膝をかばうことで複合的な怪我に発展してしまいかねませんので、きちんとした診断のもと、適切な治療を受けることが大切です。
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*参考*
…「外側円板状半月板形成的切除縫合術後、アスレティックリハビリテーションを導入することにより、早期に高校野球へ復帰した1例」 東北膝関節研究会会誌 Vol.23 武 田 溫 et al.
…「スポーツ選手の内側円板状半月板に対する形成的切除術の臨床成績とリハビリテーションの実際」 第35回関東甲信越ブロック理学療法士学会 p132- 江川 智広 et al.
…「スポーツによる半月板損傷の治療成績」整形外科と災害外科/39 巻 (1990-1991) 1 号 山藤 良史 et al.
…「十字靭帯損傷に伴う半月板,軟骨損傷合併について」 整形外科と災害外科 第33巻 (1985) 第4号 田邉 和孝 et al.