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人工関節

2020.8.8/最終更新日:2023.7.31

人工膝関節置換術後のリスクや生活での心がけについて医師が解説します

取材先の医師とクリニック

塚本 理一郎 先生

(つかもと整形外科醫院 院長)

人工膝関節置換術とは

人工膝関節置換術は、変形性膝関節症などの疾患により傷んだ膝関節の表面を削り取り、金属と超高分子量ポリエチレンでできた人工関節に入れ換える手術です。

人工膝関節置換術の適応疾患

変形性膝関節症
関節リウマチ
大腿骨顆部壊死
骨折 など

厚生労働省のデータによれば、平成29年4月から平成30年3月の間にも8万人以上の方が受けており(*1)、ポピュラーな手術と言えます。軟骨の摩耗は歩行障害や炎症をもたらしますが、人工関節に入れ換えることによって痛みを除去したり、膝関節の機能(動き)が改善され、日常生活動作やQOL(Quality of Life:生活の質)が改善されることが期待できます。(*2, 3, 4, 5)

術後の注意点やリスク

ここからは、人工膝関節置換術を受ける、もしくは検討する際に知っておくべき術後の注意点ついて解説いたします。

感染症

感染症は、人工関節の表面および周囲に細菌が増殖してしまう合併症で、発生率は0.3〜3%といわれています。人工関節の周囲は抗菌薬が作用しづらく、一度人工関節に細菌が入り込むと関節内で大繁殖してしまうことがあるのです。

たとえば一見関係のない歯周病が原因となって人工膝関節置換術後に感染症を引き起こした事例があります。手術、とくに人工膝関節置換術などの人工物を身体に埋め込む手術の場合にはこういった感染症リスクを事前に把握することがとても大切です。特に糖尿病の方は感染率が高い傾向があるため、注意が必要です。

もし感染してしまった場合は、早期であれば抗生物質などを使用した人工関節を温存する治療が可能なこともありますが、再手術が必要になるケースも多くあります。しかし、再手術を行うには、肉体的にも金銭的にも患者さまの大きな負担となりますので、人工膝関節置換術を行う場合は、感染症が起きないよう注意をする必要があります。

予防・対策

  • できるだけ風邪をひかないよう手洗いうがいを心がける
  • 虫歯や水虫などの感染症は、手術前に治療しておく

(虫歯や水虫など、他の部位の感染症の影響を受けることもあるため)

  • 糖尿病の方は、術前からしっかり食事などの管理を行う

血栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳塞栓症)

人の身体には、出血すると血が固まりやすくなるという特徴があります。そのため人工膝関節置換術に限らず、通常手術を受けると、血液が固まりやすい状態になり、血栓(血のかたまり)ができやすくなります。また、術後安静にすることも、下肢の血流がより停滞しやすくなり、静脈に血栓(血のかたまり)ができやすくなる一因となります。

人工膝関節置換術の場合、術中は下肢を動かすことがないため、下肢にこの血栓症を発症しやすくなります。これを深部静脈血栓症と言います。この深部静脈血栓症は人工膝関節全置換術においては術後1週間で多くの人に見られることがわかっており、とある研究では105の膝に人工膝関節全置換術を行い、その6割以上の患者で確認されたとしています。(*7)

実際に手術を行う際にはこの血液の凝固作用をコントロールする薬剤を投与するなどして深部静脈血栓症を予防したりします。

この血栓は自然に消えることもありますが、次第に大きくなり、下肢の血流を塞いでしまうケースもあります。すると、下肢のむくみやふくらはぎの痛みといった症状も出てきます。さらには、この血栓が血流に乗って肺や脳などの血管に詰まり、肺塞栓や脳塞栓といった命に関わる合併症を引き起こしてしまう可能性もあります。

予防・対策

  • 事前に下肢の血流状態を調べる検査を行う
  • 早期(術後2〜3日後)にリハビリを開始し、身体を動かすようにする

人工関節の緩み

人工膝関節の耐用年数は15年程度とされており、長期間使用していると、金属部品と骨との接着面に緩みが生じてしまう場合があります。人工関節に緩みが生じると、膝痛や歩行障害といった症状が出ることもあります。

体重が増加したり、重い荷物を持ったりすると、ひざに掛かる負担が大きくなり、人工関節の緩みの要因になりますので、注意が必要です。
また、スポーツで激しい動きを繰り返すことでも、人工関節が緩むことがあります。

予防・対策

  • 体重管理をしっかり行う
  • 重い荷物はできるだけ持たないようにする(カートなどを使用する)
  • 激しいスポーツは行わない
  • 術後はきちんと定期検診に行くようにする

術後に避けた方がよいスポーツ

関節を人工物に置き換えるという性質上、人工膝関節置換術の術後のスポーツ活動には制限があります。人工関節置換術も進歩を続けていますが、人工関節を長持ちさせて再手術を避けるためには、破損しうる行動を避けるべきだからです。

具体的には深く膝を曲げる動作を伴うスポーツなどは、人工膝関節の可動域を超えてしまい破損につながる可能性があるため、避けるべきです。

また、ジャンプ動作があるスポーツも避けた方がいいでしょう。ジャンプをする際には、体重の約4~7倍の負荷が膝にかかるので、人工膝関節の破損や緩みを引き起こす可能性があるためです。

ウォーキングのような軽い運動の場合も、適度に行う分には問題ありませんが、やりすぎは禁物です。毎日1万歩以上行うウォーキングは、膝への負荷が大きくなってしまうので、避けましょう。

 

具体的には、下記に挙げられるスポーツは、術後に行うことは避けた方がいいと言われています。

  • テニス
  • サッカー
  • バレーボール
  • バスケットボール
  • ジョギング

術後に行ってもよいスポーツ

人工膝関節置換術の術後でも「深く踏み込まない」「ジャンプをしない」スポーツは可能ですし、その種類は幅広いものです。

例えば下記に挙げられるスポーツは、膝への負担が比較的少なく(*6)、術後に行ってもよいとされています。

  • ウォーキング
  • 水泳
  • ゲートボール
  • ゴルフ
  • サイクリング

 

ただし、どのようなスポーツをやってよいかは、患者さまの状況によって異なったり、そのスポーツの経験の有無によっても変わってきます。また、一般的には術後に避けた方がいいと言われるスポーツであっても、安全に実施できるよう工夫すれば行える場合もあります。

術後にやりたいスポーツがある場合は、その都度担当医に相談するようにしましょう。

保存療法、手術以外の第3の選択肢

膝関節の治療は一般的に、ヒアルロン酸注射をはじめとした保存療法を行い、それがうまくいかなければ手術という流れで行われます。中でも人工膝関節置換術は最終段階の治療です。

しかし最近では保存療法と手術療法の間に、「PFC-FD療法」などのバイオセラピーや「ASC治療」などの再生医療という選択肢も登場しています。これらの治療法は「自由診療」で行われる治療ですので、治療費は全額自己負担となり、保険診療の治療と比べると高額になります。一方で、原則手術も入院も必要なく、何度も通院する必要もない治療法です。

全国でPFC-FD™療法を採用している整形外科施設は850あり(2022年3月時点)、下記ボタンから検索できます。

PFC-FD™療法(血液由来の成長因子を用いたバイオセラピー)とは

PFC-FD™療法の施術の流れ|施術写真・動画

そのため、これらのバイオセラピー・再生医療は、ヒアルロン酸注射や運動療法を行ってもなかなか効果を実感できないけれど、人工膝関節置換術などの手術をするのは避けたいという方に活用され始めています。

 

PFC-FD™療法ASC治療について詳しく知りたい方は、こちらのページもご覧ください。

ヒアルロン酸が効かない方へ 手術のいらない新しい治療法

人工膝関節置換術を受けるかお悩みの方へ

今後も元通りにスポーツがしたい場合や手術が怖いといった場合には、まずはヒアルロン酸やリハビリで良くならないかを再度検討し、その上で再生医療やバイオセラピーといったご自分の膝を温存する選択肢をおすすめします。

それらを試してもスーパーへの買い物や旅行が億劫といった支障がある場合には、人工膝関節置換術を検討されると良いでしょう。術後の生活に多少制限はありますが、人工膝関節置換術は満足度の高い良い手術ですので、日常生活を取り戻す手助けをしてくれるはずです。

 

変形性膝関節症のその他の治療方法についても知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

変形性膝関節症の治療法12選|リハビリから再生医療まで

当記事をお読みの方は以下の記事もおすすめです

 

※参考文献

*1…厚生労働省 第4回NDBオープンデータ(対象期間:H29年04月~H30年03月)

*2…中村 睦美ほか(2011).「人工膝関節置換術後患者の日常生活活動能力の経時的変化」『理学療法科学』26(2), pp221-224.

*3…Jones CA, et al. (2000). Health related quality of life outcomes after total hip and knee arthroplasties in a community based population. J Rheumatol. 27(7), pp1745-1752.

*4…Kiebzak GM, et al. (2002). The SF-36 general health status survey documents the burden of osteoarthritis and the benefits of total join arthroplasty: but why should we use it? Am J Manag Care. 8(5), pp463-474.

*5…Jones CA, et al. (2003). Determinants of function after total knee arthroplasty. Phys Ther. 83(8), pp696-706.

*6…笠原 靖彦ほか(2012).「人工関節とスポーツ I.TKAあるいはUKA後のスポーツ活動 TKA後のスポーツ活動-Knee Society scoreによる評価と検討-」『関節外科』31(11), pp1295-1298.

*7…Ching-Jen.W et al. 「DEEP VEIN THROMBOSIS AFTER TOTAL KNEE ARTHROPLASTY」J Formos Med Assoc 2000 • Vol 99 • No 11

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