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人工膝関節置換術とは
人工膝関節置換術は、変形性膝関節症や特発性膝骨壊死、関節リウマチやその他の原因により、軟骨の摩耗や壊死、炎症を起こした膝関節を人工の関節に入れ換える手術のことです。膝関節内にある、太ももの骨とすねの骨の表面を削り、金属と超高分子ポリエチレンでできた人工関節をいれることになります。
厚生労働省のデータによれば、平成29年4月から平成30年3月の間にも8万人以上の方が受けており(*1)、ポピュラーな手術と言えます。軟骨の摩耗は歩行障害や炎症をもたらしますが、人工関節に入れ換えることによって痛みを除去したり、膝関節の機能(動き)が改善され、日常生活動作やQOL(Quality of Life:生活の質)が改善されることが期待できます。(*2, 3, 4, 5)
ただし、その一方で健康だったときと完全に同じ動作ができるようになるわけではなく、ある程度生活が制限されてしまうことも事実です。(*6)
人工膝関節置換術の術後、激しいスポーツが難しい理由
関節を人工物に置き換えるという性質上、人工膝関節置換術の術後の生活には制限があります。人工関節置換術も進歩を続けていますが、人工関節を長持ちさせて再手術を避けるためには破損しうる行動を避けるべきだからです。
具体的には深く膝を曲げる動作を伴うスポーツなどを避けるべきです。人工膝関節の可動域を超えてしまい破損につながる可能性があるからです。また、膝を深く曲げる動作以外にも、ジャンプ動作があるスポーツは基本的にできません。ジャンプは膝に体重の4~7倍の負荷がかかるので人工膝関節の破損や緩みといった状況を引き起こす可能性があるからです。
人工膝関節置換術の術後に実施が難しいスポーツの例としては、バレーボールやバスケット、サッカー、ラグビーなどが挙げられます。この他にも術後に行いたいスポーツがある場合には担当医師に術後の実施可否について直接確認してください。
人工膝関節置換術の術後でも可能なスポーツ
逆に人工膝関節置換術の術後でも「深く踏み込まない」「ジャンプをしない」スポーツは可能であり、その種類は幅広いものです。
例えばウォーキング、水泳、ゲートボール、ゴルフ、サイクリングなど、比較的膝への負担が少ないスポーツなどが挙げられます。
術後にスポーツ活動を行っていた症例は177例中44例(24.9%)で,約1/4の症例でスポーツを行っていた。内訳はウォーキングが32例と最も多く,水泳11例,ゲートボール4例,ゴルフ,サイクリング,登山が各2例,グラウンド・ゴルフ,社交ダンスが各1例と,すべて衝撃の少ないスポーツを行っていた(重複例あり)
※引用…関節外科 31巻 11号「TKA・UKA後のスポーツ活動と競技種目 特集 人工関節とスポーツ I. TKAあるいはUKA後のスポーツ活動」王寺享弘
人工膝関節置換術をおこなうタイミング
膝関節の治療は主にヒアルロン酸をはじめとした保存療法を行い、それがうまくいかなければ手術という流れが一般的であり、人工膝関節置換術は最終段階の治療です。
ただし、現在ではこの保存療法と手術療法のあいだに再生医療やバイオセラピーという選択肢も登場しています。激しいスポーツに復帰したい場合には、それらの選択肢もご検討されるとよいでしょう。
また、手術においても骨を削って膝の角度を矯正する「骨切り術」と呼ばれる、術後にスポーツがしやすい手術もあります。充分に主治医と相談し、様々な選択肢のなかから納得のいく選択をされることが重要です。
人工膝関節置換術を受けるかお悩みの方へ
今後も元通りにスポーツがしたい場合や手術が怖いといった場合には、まずはヒアルロン酸やリハビリで良くならないかを再度検討し、その上で再生医療やバイオセラピーといったご自分の膝を温存する選択肢をおすすめします。
それらを試してもスーパーへの買い物や旅行が億劫といった支障がある場合には、人工膝関節置換術を検討されると良いでしょう。術後の生活に多少制限はありますが、人工膝関節置換術は満足度の高い良い手術ですので、日常生活を取り戻す手助けをしてくれるはずです。
変形性膝関節症のその他の治療方法についても知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
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※参考文献
*1…厚生労働省 第4回NDBオープンデータ(対象期間:H29年04月~H30年03月)
*2…中村 睦美ほか(2011).「人工膝関節置換術後患者の日常生活活動能力の経時的変化」『理学療法科学』26(2), pp221-224.
*3…Jones CA, et al. (2000). Health related quality of life outcomes after total hip and knee arthroplasties in a community based population. J Rheumatol. 27(7), pp1745-1752.
*4…Kiebzak GM, et al. (2002). The SF-36 general health status survey documents the burden of osteoarthritis and the benefits of total join arthroplasty: but why should we use it? Am J Manag Care. 8(5), pp463-474.
*5…Jones CA, et al. (2003). Determinants of function after total knee arthroplasty. Phys Ther. 83(8), pp696-706.
*6…龍 順之助ほか(1994).「人工膝関節置換術後の可動域を左右する因子」『日本リウマチ・関節外科学会雑誌』13(2), pp109-116.