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変形性膝関節症とは
変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)は、膝関節の軟骨の摩耗(まもう)や変性などにより、関節内で炎症を起こし、痛みや腫れを生じる疾患です。症状が進行すると、O脚やX脚といった膝関節の変形が進行したり、関節機能に障害が起きて階段の昇り降りや歩行が困難になるなど、日常生活にも影響を及ぼすようになります。
変形性膝関節症の症状は、初期段階では歩き始めや立ち上がりなどの動作をする際に膝が痛み、しばらく歩くと痛みは緩和・または無くなります。症状が進行すると、歩き始めだけでなく、歩行中ずっと痛みを伴うようになり、最終的には横になって安静にしていても痛むといった状態に陥る場合もあります。(*1)
病状がさらに進行すると、関節の軟骨が摩耗して消失し、骨と骨が直接こすれるようになるケースもあります。
変形性膝関節症の症状について、より詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
なぜ変形性膝関節症予防が大切か
昨今、変形性膝関節症の患者数は、推定2530万人以上にものぼるといわれています。(*1) さらに、60歳以上の有病率は、男性で約45%、女性では約70%にものぼるといわれています。(*1)
このように変形性膝関節症は、一定の年齢に達した方にとっては決して他人事ではない疾患です。
日本人の平均寿命は2016年時点で男性が80.98歳、女性は87.14歳で、年々長くなってきています。これに対し、日本人の健康寿命(他人に頼らず自立して生活できる年齢)は、2016年時点で男性が72.14歳で女性が74.79歳、平均寿命との差は男性が8.84年で女性は12.35年になります。(*2) 老後も自立した生活を保ち、充実した毎日を過ごすためには、健康寿命を延ばすための対策が重要です。
そのために欠かせないのは、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の予防です。
ロコモティブシンドローム(運動器症候群)とは、加齢などによる運動器の衰えで、要介護になってしまったり、そのリスクが高い状態のことをいいます。そしてロコモティブシンドローム(運動器症候群)の人口は、その予備軍も含めると4700万人といわれています。(*3)
そして変形性膝関節症は、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)になる大きな原因のひとつといわれています。
変形性膝関節症は、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)となる大きな原因のひとつですので、日頃から膝をケア・予防していくことで、老後の生活の質(QOL: Quality of Life)を保つことにつながります。
一方で、「すでに膝が痛むことがある」方は、予防の前にまずは身近な整形外科を受診することをおすすめします。
変形性膝関節症は、徐々に症状が悪化していく疾患です。まずは現在の膝の状態を把握し、軽度の膝関節症であれば、これ以上症状が進行しないよう、下記でご紹介する予防策を実施していくことが大切です。
変形性膝関節症の原因について、より詳細を知りたい方は、こちらをご覧ください。
変形性膝関節症の予防法
変形性膝関節症の予防のためには、
- 日頃から膝に負担がかかりにくい動作をすること
- 膝に負担がかからない生活様式を心がけること
- 適正体重を保つこと
- 膝を冷やさないこと
- 膝の筋力や柔軟性を上げる運動をすること
などが大切です。それぞれを以下に解説していきます。
日頃から膝に負担がかからない動作を行う
毎日のように行う「立つ」「歩く」といった動作でも、正しい姿勢で行うことで膝にかかる負荷が分散し、膝への負担を減らすことができます。
特にもともとO脚気味の方は、足の向きが内向きになり、膝の内側に負荷が集中しやすいです。この負荷を分散させるためには、普段から意識的につま先を少し外側に向け、足が「逆ハの字」になるように意識してみましょう。その際、左右の親指に重心をかけるようにします。すると、膝の中心に荷重がかかるようになり、膝への負荷が全体に分散します。
逆にX脚の方は、両足を平行にそろえるようにし、左右の小指に重心をかけるようにします。(*4)
膝に痛みがある方は、膝に負担がかかる動作を避けることも大切です。
階段の昇り降りや床に座る、しゃがむなどの動作、方向転換の際に膝をひねる動きなどは、膝への負担が大きい動作です。なるべくエレベーターを使う、床に直接座らず椅子に座るなどの工夫をし、できるだけこうした動作は避けるようにしましょう。
もし、こういった動作を避けられない場合には、下記のことに気をつけて動作を行うようにしましょう。(*4)
階段の昇り降り
- 手すりにつかまって膝に負担がかからないよう昇り降りする
- 重心を少し体の前に置くようにする
- 階段では片足を踏み出したら、もう一方の足を同じ段でそろえるようにして昇り降りする
床に座る
- 正座する際は、正座用椅子を使用する
- 膝が痛む場合は、痛い方の膝を立て膝にする
- 座る(立ち上がる)際は、近くのテーブルなどを使い、腕の力を使うようにする
- 支えになるものがない場合は、周囲の人の肩を借りる
方向転換をする
- 一度に大きな角度で方向転換せず、足を小刻みに移動させながら細かく方向転換する
- かかとを床から少し離し、足の親指の腹に重心をかけながら方向転換する
足底板を活用する
O脚やX脚がある方の場合、足底板(インソール)を活用するのもいいでしょう。
例えばO脚の方の場合、足の外側が高い足底板を使い、膝関節の角度を補正することで、膝にかかる荷重の方向を調整することができます。すると、O脚によって膝の内側に偏っていた負荷を反対側に逃がすことができ、すでに膝痛がある方も、症状の改善を期待できます。
X脚の場合は、O脚とは逆に足の内側が高い足底板を用います。
膝に負担がかかりにくい生活様式を心がける
変形性膝関節症で膝の痛みがつらい方は、生活スタイルを見直してみるのもよいでしょう。
特に膝痛をお持ちの方で、和式の生活スタイルを取り入れている方は、洋式の生活スタイルへ変えることをおすすめします。
床に座る、ふとんで寝る、和式トイレを使うといった和式の生活スタイルは、膝を深く曲げる動作が多く、膝への負担も大きくなります。
椅子やベッドなどを使うことで、座り動作やベッドに出入りする動作の際、和式スタイルの生活に比べて膝を深く曲げる必要がなくなるため、膝への負担が軽減します。
適正体重を保つ
肥満は変形性膝関節症になる要因のひとつです。体重が3kg増えれば、歩行時に約9㎏、階段の昇り降りでは約15~21㎏も膝への負担が増えると言われています。
まずは適切な体重管理を行うことが、変形性膝関節症の予防につながります。日頃からバランスの取れた食事と適度な運動をすることが大切です。
膝を冷やさない
膝を冷やさないようにすることも大切です。膝が冷えると、血流が低下して筋肉の動きが悪くなったり、痛みの原因物質が排出されづらくなり、痛みを感じやすくなります。
日頃から膝を露出しない格好をする、膝掛けを持ち歩く、保温効果のあるサポーターを使用する、毎日入浴するといったことを心がけるようにしましょう。
ただし、膝に急な痛みがある場合や、腫れや熱を伴った痛みがあらわれた場合、運動後に膝が痛む場合などは温めるとかえって症状を悪化させる恐れがあるため、急な疼痛が生じた場合は痛む部分を冷やすようにしてください。(*4)
膝の筋力や柔軟性を上げる運動をする
変形性膝関節症の症状が進んでくると、膝の痛みから安静にしがちです。しかし、ずっと安静にしていることで今度は運動不足に陥り、膝周りの筋肉が衰えて膝関節が不安定になるために、関節への負担が増してしまいます。
また、運動不足による肥満も、先述したとおり膝への負担につながります。
そこでここからは、膝の筋力や柔軟性をあげ、変形性膝関節症の予防に役立つ運動をご紹介します。
太ももの筋肉を鍛える筋トレ①
下記にてご紹介する運動は、膝に体重をかけずに行えるため、膝を痛めてしまうリスクが低い運動になります。また、誰でも簡単に行える運動ですので、普段あまり運動しない方や膝に痛みなどある方は、まずこちらの運動から始めることをおすすめします。
- 膝を伸ばして床に座り、膝の下に丸めたタオルや枕を敷く。
- 膝の下に置いたタオルや枕を床に押し付けるように、片脚に力を入れて、5秒間その状態をキープする。
- 力を抜く。
- 2~3の動作を10〜20回繰り返し、反対の脚も同様に行う。(両脚を同時に行っても良い。)
上記の運動は、膝下に丸めたタオルや枕を敷かない状態で行うこともおすすめです。膝下にタオルや枕を敷いて行うと太ももの前面の筋肉を鍛えやすく、タオルや枕を敷かずに行うと膝裏のストレッチにもなります。やり方によって鍛えられる部位が異なってきますので、ぜひ両方のパターンで行ってみてください。
太ももの筋肉を鍛える筋トレ②
- 椅子に座り、片脚の足首を直角に曲げたまま、膝を無理のない程度に伸ばす。
- 膝を伸ばした方の足をゆっくりと上に上げ、床から10㎝のところで5~10秒間キープする。
- 上げた足をゆっくり下ろす。
- 2~3の動作を10〜20回繰り返し、反対の脚も同様に行う。
脚全体の筋肉を鍛える筋トレ(スクワット)
- 肩幅くらいに足を開き、膝とつま先が同じ方向を向くようにまっすぐ立つ。
- 膝がつま先より前に出ないように、ゆっくり腰を落とす。
- 元のまっすぐ立った姿勢に戻す。
- 2〜3の動作を10〜20回行う。
膝の筋肉をのばすストレッチ
- あおむけになり、片方の太ももの裏を両手で抱える。
- 抱えた脚を痛みがない程度に胸に引き寄せ、5秒間キープする。
- 引き寄せた脚を元の位置に戻す。
- 2~3の動作を5~10回繰り返し、反対の脚も同様に行う。
膝関節を柔らかくするストレッチ
- 膝を伸ばして床に座り、かかとの下にタオルなどを敷く。
- かかとをゆっくりすべらせて身体の方に引き寄せ、膝をできる限り曲げる。
- かかとをゆっくりすべらせて、膝をできる限り伸ばす。
- 2~3の動作を数回繰り返し、反対の脚も同様に行う。
膝の裏を柔らかくするストレッチ
- 膝を伸ばして床に座る。
- 膝に力を入れてつま先を伸ばし、5秒間その状態をキープする。
- 次に膝に力を入れてつま先をそらせ、5秒間その状態をキープする。
- 2~3の動作を10回繰り返す。
適度な有酸素運動
ウォーキングなどの有酸素運動も、変形性膝関節症の予防に有効です。
ウォーキングをする際は、膝への負担を減らすためにウォーキング用のシューズなどを履き、歩く際はかかとから着地することを意識しましょう。
ウォーキングの目安については、日によって膝の痛みの程度などが異なってきますので、ウォーキングの時間や歩数はあえて決めないことをおすすめします。目安を決めてしまうと、それを目指して無理にウォーキングを続けようとして膝を傷めてしまうリスクがあるためです。ウォーキングは変形性膝関節症の予防に有効な運動ではありますが、やりすぎはかえって膝を傷めてしまうことにもなりかねません。脚が疲れたり、膝に痛みが出るなどしたら、無理せずに休んだり、その日は中止するなどしてください。
また、ウォーキングの他に、水中歩行をはじめとした水中運動も、膝への負担も少なくおすすめの運動です。
変形性膝関節症になってしまった場合の治療法について
ここまで、変形性膝関節症の予防法についてご紹介してきましたが、もし変形性膝関節症になってしまい、膝痛などの症状が出てきたらどうするのでしょうか?
変形性膝関節症の治療法は、大きく分けて「保存療法(手術以外の治療法)」と「手術療法」に分けられます。
保存療法では、薬を用いて痛みなどを緩和する「薬物療法」や、筋力トレーニングやストレッチなどで症状の緩和・予防を行う「運動療法」、サポーターや足底板などの装具を利用する「装具療法」、膝を温めたり、通電などを行う「物理療法」などが行われています。
変形性膝関節症の治療方法について、より詳細を知りたい方は、こちらをご覧ください。
新しい治療の選択肢「バイオセラピー」
「膝痛で頻繁に診察に行くのが大変」「ヒアルロン酸や鎮痛剤の頻繁な注射が苦痛」「手術はできるなら受けたくない」といった方にご提案できる新しい選択肢が、バイオセラピーです。
バイオセラピーとは、人の血液や細胞を利用して治療を行う方法です。変形性膝関節症の治療法としては、自身の血液に含まれる成分を利用した「PFC-FD療法」や、自身の脂肪に含まれる幹細胞を利用した「ASC療法」があげられます。
特に「PFC-FD療法」は、変形性膝関節症の初期段階の場合に高い効果を発揮するといわれています。
また、これらの治療は、通常2回の通院で済み、手術と比べて治療の際にかかる身体への負担も軽く済みます。
変形性膝関節症の治療には、運動療法を取り入れることが推奨されていますが、バイオセラピーと組み合わせて実施することで、より高い効果を得られる可能性もあります(効果には個人差があります)。
それぞれの治療法について詳細を知りたい方は、下記ボタンから詳細な説明をご覧になれます。
これらの治療について検討したい方は、下記ボタンからバイオセラピーを提供している医療機関を探すことができます。
「どのような治療の選択肢があるのか知りたい」「この治療法について詳しく話を聞きたい」という方は、ぜひ医療機関にご相談ください。
変形性膝関節症の予防法についてのまとめ
変形性膝関節症の予防のためには、安静にしすぎず適度に身体を動かしたり、膝関節を支える筋肉のトレーニングを行うことが大切です。しかし、膝が痛いときに無理やりトレーニングを行ってしまうと、かえって膝痛が悪化してしまうことになりかねません。
運動を行う際は、膝が痛まない程度に行うことが大切です。特にスクワットやウォーキングは、膝に体重がかかるため、無理して行うと膝を傷めやすい運動になります。膝痛などがある場合は、「太ももの筋肉を鍛える筋トレ①」でご紹介したような膝に体重がかからない運動から始めてみましょう。このような運動から始めてみて、スクワットやウォーキングは膝の調子が良くなってきた際などに取り入れていくことをおすすめします。
変形性膝関節症予防のためのストレッチや筋トレは、回数よりも継続が大切です。こうした運動を1ヶ月以上続けて行った方の多くは、膝痛や膝の動きなどに対して何かしら効果を実感しています。無理のない程度で大丈夫ですので、まずは少ない回数でも、1ヶ月継続することを目標にしてみましょう。効果を実感することで、その後運動を続けることへのモチベーションにもつながります。
また、膝痛などの症状がある場合は、できれば医師や理学療法士などの指導のもと、その方に適した運動を実施することが望ましいです。膝痛などの症状がある場合は、まず医療機関を受診するようにしましょう。
※注釈
*1…Yoshimura N, et al. (2009). Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. Journal of Bone and Mineral Metabolism. 27, 620-628.
*2…内閣府(2018).2 健康・福祉|平成30年版高齢社会白書(概要版).https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/gaiyou/s1_2_2.html.
*3…厚生労働省(2007).平成19年度国民生活基礎調査の概況.https://www.wam.go.jp/wamappl/bb14GS50.nsf/0/5d7c0bc463105079492574c100019893/$FILE/20080911_1shiryou_all.pdf.