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筋腱 スポーツ時の膝痛

2020.12.15/最終更新日:2023.7.31

腸脛靭帯炎(ランナー膝)とは?膝の外側が痛くなる疾患を医師が解説

取材先の医師とクリニック

谷川 英徳 先生

(白井聖仁会病院 整形外科部長)

腸脛靭帯炎(ランナー膝)とは

腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)とは、主に長時間のランニングなどを行った際に、膝の外側が痛くなってくる疾患です。腸脛靭帯炎の発症原因は必ずしもランニングに限定されませんが、ランニング動作でよく生じるため、“ランナー膝”とも呼称されます。

腸脛靭帯とは

腸脛靭帯はおしりの筋肉(大臀筋と大腿筋膜張筋)から始まり、脛骨(けいこつ:すねの骨)の前外側にある膨らみ(Gerdy結節という場所)に繋がっています

 

 

これらの筋肉は股関節を外転させる作用があり、腸脛靭帯はこの力を脛骨に伝える役割があります。ランニングの動作では、足を地面につけたときに上半身が傾かないように支える役割をします。

 

腸脛靭帯炎が生じるメカニズム

腸脛靭帯は大腿骨の外側を通って、脛骨の外側に繋がっています。

膝を伸ばしている時は腸脛靭帯は大腿骨の外側の出っ張り(外側上顆と言います)の前にあるのですが、膝を曲げてゆくと、おおよそ30度屈曲したところで、外側上顆を乗り越え後方に移動します。このときに腸脛靭帯は大腿骨の外側の出っ張り部分にこすれます。

長距離のランニングでは腸脛靭帯が何度もこすれることによって炎症を引き起こし、膝の外側に痛みが生じます。

 

 

また腸脛靭帯炎は以下のような特徴があると発症しやすいと言われています。

  • 大腿骨外側の出っ張り(大腿骨外側上顆)が大きい
  • 股関節外転筋力が弱い
  • 内反膝(O脚ともいいます)
  • 回内足(かかとが外側へ傾く状態)
  • 腸脛靭帯の伸張性が低いなど

 

腸脛靭帯炎の症状

運動時の痛み

腸脛靭帯炎は、ランナーやサイクリングなど、膝の屈伸を繰り返す運動により起こるオーバーユース症候群といえます。大腿骨の出っ張りと腸脛靭帯が何度もこすれることになり、膝の外側が痛くなってきます。

初期のうちは運動中や運動を終えたあとに痛みますが、安静にしていると痛みはなくなります。しかし、腸脛靭帯炎が悪化すると、歩行時や安静時にも膝の外側に痛みを感じるようになります。

腸脛靭帯炎の主な原因

過度なランニング

腸脛靭帯炎は特に長距離ランナーに多く見られるスポーツ障害で、練習量が増加したり練習環境が変わる時期などに発症します。

例えば、長距離ランナーが練習量を増やしたときや、初心者がマラソンの練習を始めたとき、マラソン大会への参加頻度が増えたときなど、膝に対する負荷が増えた時期に発症します。

きちんと休息をとれば重症化することは少ないですが、十分に休息を取らずに運動を継続した場合、回復が間に合わずに炎症の起きている箇所にどんどんダメージが蓄積してしまい、より強い痛みへと変わっていきます。

そのほかに、準備運動不足や休養不足、さらには地面やシューズが固い状態などでランニングをしすぎてしまうと、腸脛靭帯炎になりやすいとされます。

内反膝(O脚)

腸脛靭帯炎の発症要因の一つに内反膝(一般的な名称はO脚)が挙げられます。内反膝の人は、太ももからすねにかけて内側に曲がっているため、膝の外側を走行している腸脛靭帯が大腿骨外側の出っ張りに擦れやすくなります。そのため、内反膝の人は腸脛靭帯炎を起こしやすいと言われています。

体が硬い・急に運動を始める

もともと体が硬い人の場合、腸脛靭帯も硬く伸びにくいことが多いです。腸脛靭帯の柔軟性が不足していると、大腿骨の突起を腸脛靭帯が余裕をもってすり抜けることができなくなり、膝を曲げたり伸ばしたりする際の摩擦抵抗を強めてしまいます。これにより、腸脛靭帯炎を引き起こすこともあるため注意が必要です。

また、健康のためにと思い立ち、これまで運動していなかった人が急に運動を始めるような場合にも腸脛靭帯炎は起きやすいです。このような場合、これまで運動していなかったために股関節外転筋力(脚を外側へ引っ張り支える力)が弱く、腸脛靭帯の柔軟性も低いため、腸脛靭帯炎を引き起こし易いのです。

腸脛靭帯炎の診断

膝の上部外側を押しながら、膝を曲げた状態から伸ばしてゆくと、痛みが出るのが特徴です。

また、医療機関ではレントゲンやMRIによって診断を行います。腸脛靭帯はレントゲンには映りませんが、大腿骨の形や、O脚や加齢による膝の変形をレントゲンで確認します。MRIは腸脛靭帯やその周囲の炎症を見ることができ、また腸脛靭帯炎に似た症状を起こす外側半月板損傷を見分けるためにも有用な検査です。

ただ、最終的に診断を下せるのは医師なので、少しでも腸脛靭帯炎の疑いがある場合には、医療機関に行くことを強く勧めます。

 

腸脛靭帯炎の治療法

初期治療

腸脛靭帯炎の治療の基本は局所の安静と運動療法です。

痛みが出た際の初期の治療は、まずランニングを中止・軽減し、局所のクーリング(冷却)や消炎鎮痛剤(飲み薬や湿布薬)を使用します。症状が強い場合には、炎症のある部位に局所麻酔薬やステロイドなどを局所注射します。痛みが改善してきたら、運動療法を行い、ランニングを再開し少しずつ走る距離を増やしてゆきます。

内反膝や回内足を認める場合には、腸脛靭帯への負荷軽減目的に、足底板を作成したりテーピングを行います。

運動療法

腸脛靭帯炎はストレッチなどの運動療法が効果的で、必ず行う治療法です。ストレッチを行うことで腸脛靭帯の柔軟性を高めて大腿骨突起部とこすれるときの摩擦抵抗を低下させ、炎症を改善・防ぐ効果が見込めます。

また、腸脛靭帯の柔軟性を獲得することは再発の防止にも繋がります。ストレッチの方法については、のちほど詳しく解説いたします。

その他の治療

初期治療に効果がない場合には、組織再生目的の対外衝撃波治療(extracorporeal shock wave therapy: ESWT)や多血小板血漿(platelet rich plasma:PRP)などの自己血液を利用するバイオセラピーが近年注目されています。

ESWTは装置で発生させた衝撃波を病変部位に集中させることで、痛みを感じる神経を壊し、早期の除痛効果を獲得できます。

PRPなどの自己血液を利用するバイオセラピーは、患者自身の血液を遠心分離して作成した血小板や成長因子が多く含まれた液体を患部に注入する治療法で、組織修復が期待できます。いずれの治療も腱障害、靭帯障害に対する低侵襲な治療法として期待されています。

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手術治療

腸脛靭帯炎の80%は、ここまで解説してきた治療法によって改善することができると言われています。しかし、一旦症状が改善してもスポーツに復帰すると痛みが再発してしまうなどの難治症例に対しては、手術を行います。手術の方法は、腸脛靭帯の部分切除や延長術、引っかかる部分の骨や軟部組織切除などがあり、有効な治療法です。

腸脛靭帯炎に有効なストレッチ

腸脛靭帯炎は、大腿骨の外側にある腸脛靭帯と大腿骨の突起がこすれることによって生じます。つまり、こすれる際の摩擦抵抗を減らすことができれば腸脛靭帯炎にかかりにくくすることが出来ます。

腸脛靭帯自体を柔らかくしたり、腸脛靭帯周囲の筋肉を鍛えることで腸脛靭帯と大腿骨の摩擦抵抗を低減し、再発を防止したり、症状改善が可能なストレッチ方法をご紹介します。腸脛靭帯炎になりにくい脚を目指しましょう。

ストレッチ1. 体の外から腸脛靭帯を刺激する

腸脛靭帯を直接的にほぐす方法です。市販のストレッチポールを使用します。

ストレッチポールを床に置き、その上に太ももの外側を押し付け、その体制のまま太もも外側がほぐれるように上下に動きます。腸脛靭帯の緊張をほぐすことで柔軟性を獲得することができます。

 

ストレッチ2. 腸脛靭帯を伸ばす

太ももの外側を伸ばすことによって腸脛靭帯の伸長性を獲得する(伸びやすくする)ストレッチです。

脚を伸ばして座り、片方の脚をクロスさせて立てます。その脚を、逆側の手で押さえ、上半身を後方へ捻っていきます。立てた脚のうしろへ振り向くようなイメージです。

大事なことは腸脛靭帯、つまり太ももの外側を意識しながら行うことです。腸脛靭帯、つまり太ももの外側が伸びていることを感じながら、両側の脚に行いましょう。

 

ストレッチ3. 脚をクロスさせて上体を倒す

立った状態で脚をクロスさせ、足同士を拳ひとつほど離します。この状態から上体を横に倒してゆき、後ろの脚に向かって両手を伸ばします。

 

これらのストレッチによって腸脛靭帯を伸ばすことができます。硬くなっていた腸脛靭帯を伸ばすことによって柔軟性が獲得でき、大腿骨との摩擦抵抗を減らすことができます。

まとめ

腸脛靭帯炎は日常の診療で比較的多く見かける病気です。運動量を増やしたときに発症することが多く、基本的には負荷の軽減、ストレッチで治る病気です。治りが悪い場合にも、対外衝撃波療法、PRP療法やPFC-FD™療法、手術療法など様々な選択肢がありますので、整形外科を受診してください。

あわせて読みたい

 

 

※参考

「股関節角度およびモーメントの変化が腸脛靭帯の硬度に与える影響 ―せん断波エラストグラフィーによる評価―」理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集) 建内 宏重 et al.

「大腿筋膜張筋の静的ストレッチングが腸脛靭帯の硬度に与える影響」理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集) 堤 省吾 et al.

「長距離ランナーにみられる腸脛靱帯炎の1例」整形外科と災害外科 34巻 (1985-1986) 3 号 中家 一寿 et al.

Can Elite Dancers Return to Dance After Ultrasound-Guided Platelet-Rich Plasma (PRP) Injections? Nidhi Jain  et al.

Iliotibial Band Syndrome in Runners: Biomechanical Implications and Exercise Interventions Robert L Baker  et al.

Iliotibial band syndrome: evaluation and management Eric J Strauss  et al.

The relationship between lateral epicondyle morphology and iliotibial band friction syndrome: A matched case-control study Joshua S Everhart  et al.

Radial extracorporeal shockwave therapy compared with manual therapy in runners with iliotibial band syndrome Kristoffer Weckström  et al.

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