関節治療オンライン

メニュー

ベーカー嚢腫

2020.12.15/最終更新日:2023.4.27

膝の裏に痛みを感じるベーカー嚢腫(のうしゅ)について、医師が解説

取材先の医師とクリニック

谷川 英徳 先生

(白井聖仁会病院 整形外科部長)

ベーカー嚢腫(のうしゅ)とは

ベーカー嚢腫(のうしゅ)は、膝の裏にある滑液包(かつえきほう)という組織が炎症を起こし、膨らんでしまう疾患です。

 

関節の周囲には滑液包(かつえきほう)と呼ばれ、液体が詰まった小さな袋が多数存在します。滑液包は腱や靭帯の周囲に存在して摩擦を減らすことで関節組織を滑らかに動かす役割を果たしています。

この滑液包に何らかの原因で液体が溜まってしまうことが、ベーカー嚢腫の原因と言われています。病名は1877年にベーカーという人物によって膝の裏に液体が溜まってしまう病気が報告されたことが由来です。

 

このベーカー嚢腫はサイズが小さいものであれば問題ありませんが、ときに大きくなり周囲の組織を圧迫することで、膝の動きを阻害したり、膝の裏が痛む原因になることがあります。大きいベーカー嚢腫は握りこぶし大の大きさとなり、皮膚の上からでも卵ほどの膨らみが見て取れます。

発症の原因

ベーカー嚢腫の原因はいくつかあります。ここでは代表的な原因をご紹介します

変形性膝関節症や関節リウマチなどの膝疾患

成人に発生するベーカー嚢腫は、9割以上が変形性膝関節症、関節リウマチ、痛風、血清反応陰性脊椎関節症など、膝関節の病変を合併していると報告されています。

そのため、ベーカー嚢腫を外科的に切除しても、根本となっている膝関節内の病変が治癒しない限り症状が再発することが多く、膝関節内の病変が治癒すると、自然とベーカー嚢腫は軽快します。

 

 

いずれの疾患も炎症に伴い膝にもとから存在する関節液が必要以上に溜まってしまいます。このとき、膝関節の関節包が膝の裏と繋がっている場合には膝の裏に関節液が貯留してゆきます。なお、関節内から膝裏へは水が流れやすいものの、逆方向には流れにくい構造になっていることが多く、一度膝裏に水が入ってしまうと溜まっていく一方となり、結果、ベーカー嚢腫となります。


※関連記事

膝の使いすぎ

膝に過剰な負担がかかることでもベーカー嚢腫になることがあります。

ランニングやサイクリングで膝の曲げ伸ばしをしすぎると、膝裏の腱と腱が擦れて炎症を起こし、滑液包に炎症が生じます。このように膝の使いすぎ(オーバーユース)が原因でベーカー嚢腫になった場合には運動を減らし、安静にすることでベーカー嚢腫は自然に軽快することがあります。

ベーカー嚢腫の症状

不快感や痛み

初期の症状では膝裏の違和感や不快感にとどまることが多いとされ、この段階では見過ごされてしまうことも少なくありません。

症状の進行に従い、膝の裏側に痛みを感じたり、膝を曲げる時に圧迫感を感じることがあります。とくに正座に支障をきたすことが多く、痛みや異物感によって正座動作を始めとした膝を深く曲げる動作が困難になる、可動域制限が生じることがあります。

しびれ

膝裏には“坐骨神経(ざこつしんけい)”という足先へと通る神経が存在します。

ベーカー嚢腫が進行し、サイズが大きくなることでこの神経を圧迫してしまい、膝から下にしびれを感じることもあります。

ふくらはぎの張りと痛み

まれに、大きくなりすぎたベーカー嚢腫が破裂することがあります。膨らみすぎた嚢腫が、なんらかの圧力がかかった拍子に破裂するのです。

その場合、ベーカー嚢腫の中に溜まっていた関節液がふくらはぎの筋肉間に入り込み、ふくらはぎ全体の腫脹(腫れ)と強い痛みをもたらします。“深部静脈血栓症”というふくらはぎの血栓に類似した症状を呈します。

 

この症状がベーカー嚢腫の破裂によるものであれば、経過観察で症状は軽快してゆきますが、もし深部静脈血栓症が原因の場合には血栓が移動して肺などの器官内で詰まると命に関わる状態となります。疑わしければ速やかに病院にかかるようにしましょう。

 

診断と検査

ベーカー嚢腫が疑われる場合、診察にて問診、視診、触診を行います。それでも判断が難しい場合や、他の疾患との鑑別(かんべつ:見分けること)する場合、嚢腫の広がりを確認する場合など、必要に応じて超音波検査、MRI検査を実施することもあります。

ベーカー嚢腫の治療法

ベーカー嚢腫があったとしても、無症状やサイズが大きくない場合には経過観察を行います。ただし、ベーカー嚢腫が大きくなり、症状が出る場合には治療を行います。

穿刺(せんし)

まず始めに行う基本的な治療は針を刺して水を抜く処置で、これを「穿刺(せんし)」といいます。ベーカー嚢腫は関節液が溜まった袋状の組織ですので、針を刺して中の水を抜けば大きさは小さくなり、膝裏の症状が改善します。

ただし、ベーカー嚢腫は再発しやすく、再び水が溜まってくることがあります。再発を繰り返す場合には、穿刺した後に炎症を抑えるステロイド剤を注射することもあります。

手術

ベーカー嚢腫が巨大で神経症状(下肢の痛みやしびれ)や血管症状(血管を圧迫することによる下肢の痛み)を伴う場合や、何度穿刺を行ってもすぐに再発してしまうような場合には、手術によって嚢腫を摘出する方法を選択します。

皮膚を大きく切開して、直接ベーカー嚢腫の袋を切除し、関節腔との交通路を切除する方法や、関節鏡を用いて嚢腫を切除する方法があります。

手術によりベーカー嚢腫を摘出すれば、根本的に関節液が溜まって腫れる原因を除去できるため、再発率は低くなります。

まとめ

ベーカー嚢腫は整形外科の日常の診察でも比較的よく目にする疾患です。大きさが小さければ経過観察で十分ですが、大きくなると膝の動かしにくさや、神経血管症状(下肢の痛みやしびれ)を起こすことがあり、その場合は穿刺や手術を行います。膝裏が腫れる原因には、ベーカー嚢腫以外にもガングリオン、脂肪腫などの病気がありますので、整形外科で診察を受けてください。

あわせて読みたい

 

 

※参考

「腓骨神経麻痺を呈した膝窩嚢腫の1例」整形外科と災害外科 67巻(2018)1号 原 光司 et al.

「総腓骨神経刺激症状を呈した膝窩嚢腫の一例」整形外科と災害外科57巻(2008)4号 田原 隼 et al.

「ベーカー嚢腫破裂と下肢静脈血栓症の鑑別」静脈学23巻(2012)3号 松本 春信 et al.

「図説 膝の臨床」メジカルビュー社 冨士川 恭輔

A Popliteal Cyst Responsible for Acute Lower Limb Ischemia Salomé Kuntz  et al.

Popliteal cysts: a current review Alyssa M Herman  et al.

Arthroscopic treatment of popliteal cyst and visualization of its cavity through the posterior portal of the knee Masaaki Takahashi  et al.

新着記事

イベント

医療機関を探す

キーワードから探す

条件から探す

都道府県
北海道・東北
関東
甲信越・北陸
東海
関西
中国・四国
九州・沖縄
治療方法