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人工膝関節置換術とは
人工膝関節置換術とは、主に変形性膝関節症により変形したり傷ついてしまった膝関節の一部を人工の関節に置き換える手術です。
膝の人工関節である人工膝関節は、主に骨の役割をする金属と、軟骨の役割をするポリエチレンから作られており、本来の膝関節の動きを再現できるように設計されています。
この人工関節を膝関節にある大腿骨(太ももの骨)や脛骨(すねの骨)、およびそれら表面にある軟骨の代わりとして膝に埋め込むことで、膝の痛みの原因を取り除いたり外出しやすくなるなど、生活の質を改善することができる手術です。
この人工膝関節置換術は大きく分けて2種類あり、膝関節の大部分を人工関節に入れ換える「人工膝関節全置換術」と、膝の内側だけが悪い場合にその部分のみを入れ換える「人工膝関節部分置換術」があります。それぞれの特徴や違いをご紹介します。
人工膝関節“全”置換術
人工膝関節全置換術では、軟骨が存在する膝関節の表面すべてを人工関節に置き換えます。具体的には、膝関節に面している大腿骨と脛骨の一部、およびその骨の表面に存在する軟骨を人工関節にします。場合によっては膝関節を支える靭帯機能の一部も人工関節によって代替することがあります。
一般的な人工膝関節置換術の手術は約10~15㎝程皮膚切開が必要とされています。症状によってはさらに小さい切開で済む場合もあるので、主治医とよく相談してください。
インタビューを実施した埼玉協同病院では人工膝関節全置換術が年間約500件行われており、珍しい手術ではありません。
適応目安
- 大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の間に軟骨がほとんどない場合
- 骨の変形がかなり進行している場合
- 膝を曲げたときに拳が膝裏に入る場合(=膝が曲がりきらない)
- 脚を伸ばしたときに膝同士の隙間に拳が入る場合(=O脚)
- 脚を伸ばして仰向けになった時に膝裏に拳が入る場合(=膝が伸びきらない)
期待される効果
- 原因を取り除くことによる痛みの大幅な軽減
- 躊躇せずに外出や買い物ができるようになる
- 散歩やゴルフといった軽い運動が可能になる場合もある
- 脚が真っ直ぐに伸び、歩く際の見た目が良くなる
人工膝関節“部分”置換術
人工膝関節部分置換術は、膝関節に面している大腿骨と脛骨のうち、外側か内側の損傷が激しいどちらかだけを人工関節に置き換える手術です。日本人にはO脚になる人が多く、体重が膝の内側に偏りやすいことから、部分置換術では膝の内側の骨と軟骨を人工関節に入れ換えることが多いと言えます。
全置換術と比べて約半分の大きさの人工関節を用いるため、皮膚を切開する範囲は短くなり、骨の切除量も少なくて済みます。また、靭帯など元々持っている組織も残すことができるため、術後に違和感のない膝になりやすいといった特徴もあります。
適応目安
- 膝の変形が部分的な場合
- 症状進行度が末期ではない場合
- 膝をある程度伸ばせる場合
- O脚やX脚の程度が軽い場合
- 高度の肥満でない場合
期待される効果
- 原因を取り除くことによる痛みの大幅な軽減
- 躊躇せず外出や買い物ができるようになる
- 全置換術と比べて元の組織が多く残るので、膝の感覚変化が少なく運動しやすい
術後について
人工膝関節置換術ののちに歩けるようになるまでには個人差がありますが、早い方では手術の翌日や翌々日に歩くことができる方もいらっしゃいます。
また、退院については全置換術ではおよそ術後2~4週間後、部分置換術ではおよそ2~3週間後を目安に日常生活に戻ることができます。念の為、2ヶ月間ほどは転倒防止のために杖の使用が推奨されます。
退院後は、人工物を体にいれるという手術の性質上、異物感や異物反応として膝が熱を持つことがありますが、これらの症状は術後3~6ヶ月間ほどでおさまり、その後は”自分の膝”として馴染んでいきます。
人工膝関節置換術を受けるかお悩みの方へ
「膝の痛みはつらいけれど、手術を受けるのはハードルが高い…」と感じている方は、多くいらっしゃいます。そのような場合は、まず他にどのような治療の選択肢があるのか、自分の症状や生活環境ではどのような治療が最適なのか、まずは検討することが大切です。
手術を受けるべきかお悩みの方や、できれば手術以外の治療法を受けたい方、自分にはどのような治療法が適切なのか知りたい方は、まず整形外科の医師に相談してみましょう。
変形性膝関節症のその他の治療法について知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
バイオセラピーや再生医療という第3の選択肢
手術を受けるのはハードルが高く、なかなか決断がつかない方や、家庭の事情や持病があるために手術が受けられない方は、ヒアルロン酸注射などの保存療法と手術療法の間をうめる第3の治療の選択肢として、PFC-FD™療法や再生医療であるASC治療もご検討いただけます。
PFC-FD™療法は、患者さま自身の血液に含まれる血小板の働きを活用した治療法です。
またASC治療は、患者さま自身の脂肪から採取された幹細胞を用いた治療法です。
これらの治療は組織修復と抗炎症効果が期待でき、治療の際は入院の必要もないため、保存療法では十分な効果が得られなかったが、手術はできれば受けたくない、または受けられない方などに活用され始めています。
PFC-FD™療法やASC治療について詳細を知りたい方は、こちらのページもご覧ください。
まとめ
人工膝関節置換術は、「人工物を体にいれなければならない」「手術を受けなければならない」といったことへの抵抗や、リハビリも必要なため、「リハビリを続けられるだろうか」などの不安も伴います。ですが、歩けるようになる心理的な満足感もさることながら、術前の膝の痛みから解放されることによって生活の質は大きく改善されます。
体の一部を人工物に入れ換えることには勇気がいりますが、それだけの覚悟を決めて臨む価値がある手術と言えるでしょう。
※脚注
–理学療法科学 26 巻 (2011) 2 号「人工膝関節全置換術による身体機能および健康関連QOLの回復過程」飛永 敬志 et al.
-整形外科と災害外科 52 巻 (2003) 4 号「人工膝単顆片側置換術の術後成績について」秋山 武徳 et al.