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靭帯 後十字靭帯

2020.8.11/最終更新日:2023.7.31

後十字靭帯損傷の症状や原因、治療方法について医師が解説します

取材先の医師とクリニック

坂井 宏成 先生

(神戸関節症クリニック 院長)

後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)とは

後十字靭帯は大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の中心部を前十字靭帯とともに繋いでいる膝関節内の靭帯です。前十字靭帯と十字のかたちに交差して膝関節を支えています。

普段は膝関節のひねる動作を支えたり、脛骨が後ろにずれないように支える働きを担っています。靭帯の中で強度は最も強い部類に入ります。

後十字靭帯損傷とは、この後十字靭帯が何らかの原因によって損傷または断裂してしまった状態を指します。

概要

症状

後十字靭帯損傷の特徴的な症状は下記になります。

  • 受傷時に動けなくなるほどの激しい痛み
  • 徐々に患部が熱く感じられる
  • 徐々に患部が腫れてくる
  • 3週間ほどで症状が和らぐが、膝を曲げたり歩くときに不安定感を覚える
  • 運動すると膝の緩みや不安定感が生じ、運動のたびに関節が腫れる
  • 日常生活に大きな支障はないが、長時間の歩行やスポーツには支障がある

損傷してすぐは激しい痛みが生じ、膝の曲げ伸ばしがうまくできないといった可動域制限が見られたり、膝全体が腫れることもあります。

また、損傷時に膝を守る他の組織、たとえば他の靭帯や半月板なども同時に損傷することがあり、その場合は膝の不安定感をより強く感じます。具体的には足を踏み出す際に、膝になんとなく嫌な感じがするといった症状です。また、もし膝の靭帯を複数損傷すればガクッと膝の力が抜ける「膝くずれ」が生じることもあります。

損傷直後の腫れが落ち着くと徐々に膝の緩みが顕著となり、とくに軽度の後十字靭帯損傷はそのまま症状が落ち着くことがありますが、それでも膝が不安定であることには変わりないため、放置することで半月板損傷へ発展したり、年月を経て変形性膝関節症に発展することもあります。膝の不安定感が慢性化するなどの症状がある場合には放置せずに速やかに病院で診断をもらい、適切な治療を受けるようにしましょう。

※参考…日本義肢装具学会誌「膝靭帯損傷の治療と装具療法」境 隆弘 et al.

原因

先に述べたように後十字靭帯は脛骨(すねの骨)が、大腿骨(ふとももの骨)に対して後ろにずれないように支えています。よって、後十字靭帯の損傷は膝から下の部分がうしろへ押し込まれ強い力が加わったときに発生します。

後十字靭帯を損傷する最も多い原因は、転倒の際に地面に強く膝の前面を打ち付けたり、ラグビーのようなコンタクトスポーツで”すね”の前面に相手プレイヤーがぶつかったり、交通事故で”すね”に強い衝撃が加わるなどです。

※参考…バイオメカニズム学会誌「膝関節のスポーツ傷害のメカニズム」福林 徹 et al.

治療

受傷直後

強い不安定性のない後十字靭帯損傷の場合、保存的治療(手術をしない治療)を行うことが一般的です。

急性期、つまり損傷したてのころの治療は、膝に貯まった血腫(関節内の出血)を穿刺除去し(血抜き)、他の外傷と同じくRICE療法をまず行います。

RICE療法とはRest(安静)、Icing(冷やす)、Compression(圧迫)、Elevation(患部を心臓より高い位置に置くこと)の4つの頭文字を取ったもので、外傷を受けた際の応急処置のことをいいます。不安定性が軽度の場合はテーピング固定や包帯による固定を行い、リハビリで可動域の回復や筋力の増強を行うことで後十字靭帯の機能を補うようにします。不安定性が強い場合は、早期から装具療法を行います。

受傷直後から数週間

装具療法

後十字靭帯を損傷した膝の太ももからすねにかけてサポーターを着け、可動域を制限します。サポーター装着により膝がガクッと抜ける「膝くずれ」を防ぐことで、膝関節の軟骨や半月板が損傷しないようにします。この装具療法を行うことで膝を保護しながら後述の運動療法で筋力を鍛え、膝の安定性を増強していきます。

ただし、長期の装具療法は筋萎縮を助長し、かえって後十字靭帯不全(膝の不安定性)が増してしまうので、長くとも2ヶ月程度で装具は外すことが多いです。

数週間経ってからの治療

急性期の症状が落ち着いてから、アスリートであれば早期の回復を目指して運動療法を行います。また、早期の復帰を強く望む場合にはPRP療法も検討します。

運動療法

運動療法とは、損傷した患部を守るために患部周辺の筋肉を増やして患部への体重負荷軽減を目的とする治療法で、主に筋力トレーニングのことを指します。後十字靭帯損傷で運動療法の対象となる代表的な筋肉は大腿四頭筋(だいたいしとうきん)です。大腿四頭筋とは、太ももの前面にある面積の大きい筋肉で、膝を支える主要な筋肉と言えます。

PRP療法

PRP療法はPlatelet-Rich Plasma(多血小板血漿)療法の略語で、自身の血小板を濃縮活性化し、抗炎症作用と修復作用のある液体を患部に注射する治療法です。怪我をするとカサブタができて時間が経てば治りますが、これは血小板が放出する成長因子の働きによるものであり、PRP療法はこの成長因子の働きを活用する入院のいらない治療法になります。

後十字靭帯損傷は、前十字靭帯損傷と比較すると血流が豊富な膝後方の関節包と距離が近いため、若干の膝関節の緩みを残しつつも治癒する可能性が高く、軽度の緩みであれば運動療法などでカバーできることが多いため、装具療法や運動療法と言った保存的治療が選択されることが多いです。

PRP療法では、早期に炎症を抑え、理論的に組織修復を促進できると期待されますので、運動療法と組み合わせることにより日常生活やスポーツへの復帰を早められると考えられています。

このPRP療法は保存療法と手術の間を埋める新たな選択肢として注目されつつあります。また、PRPを応用し、濃縮した血小板から成長因子だけを抽出して患部へ注射するPFC-FD™療法という治療もあり、成長因子を用いた治療はさらなる発展が期待されます。

手術による治療

前述の保存的治療では充分な安定性が得られなかった場合、もしくはトップアスリートが後十字靭帯を損傷した場合などは手術療法が選択されることがあります。後十字靭帯損傷に対する手術は「後十字靭帯再建術」が挙げられます。

後十字靭帯再建術

損傷・断裂した靭帯に、身体の別部位の腱を移植して再建する方法です。移植する腱は採取しても支障が出にくい膝のハムストリングの一部(半腱様筋腱と薄筋腱)や、膝蓋腱(膝の皿の周辺の腱)の一部などを使用することが多いです。

再建手術は関節鏡という関節用の内視鏡を用いて行います。一般的には小さな傷で、大手術ではありませんが日常生活への復帰には概ね2~3週間、ジョギングできるまでは概ね3~4ヶ月、本格的なスポーツ復帰は8ヶ月~1年間ほどかかることがあります。

 

 

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