PRP療法とは
PRP療法とは、血液中の血小板を濃縮した液体である多血小板血漿(Platelet Rich Plasma)を活用した治療法のことです。
怪我をしても出血が徐々に収まりカサブタになって修復されるという作用には、血小板の働きが関係しています。血小板は傷を修復する際に様々な種類の成長因子を放出して、人体がもともと備えている自己治癒力を高めて修復を促進していると考えられています。
PRP療法はこの血小板に含まれる成長因子の働きを活用して自己治癒力を高め、様々な関節の疾患・損傷に対して疼痛などの症状改善を期待する治療法です(*1)。変形性膝関節症を代表に、様々な関節疾患に対し活用が始まっています。
PRP療法の対象になる「変形性膝関節症」とは
変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)とは、主に加齢によって膝関節内の軟骨が摩耗し、膝の痛みや膝関節の変形を引き起こす疾患です。日本国内で変形性膝関節症の自覚症状を持つ人は1,000万人、潜在的な患者数は3,000万人にものぼるとされています(*2)。
変形性膝関節症の初期段階では椅子から立ち上がったときや歩き始めたときに膝が痛み、症状が進行すると横になって安静にしていても痛みが生じるようになります。
変形性膝関節症の症状について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
一般的な変形性膝関節症の治療
変形性膝関節症に対する一般的な治療方法としては、まず筋力トレーニングや痛み止めの内服、湿布などの外用薬の使用、ヒアルロン酸注射などの保存療法を行います。そして、これらの保存療法を続けても効果が感じられなかったり、症状が進行してしまった場合は、手術による治療も検討されます。


しかし、中には「手術を受けるのはちょっと怖い」となかなか決断ができなかったり、家庭の事情や持病などの影響で手術が受けられない方もいらっしゃいます。
そこで保存療法と手術療法の間を埋める第3の治療法として活用され始めているのが、PRP療法を含む再生医療やバイオセラピーです。これらの手術を回避できる新しい治療の内容と治療の流れについて、下記ページでもわかりやすく解説していますのであわせてご覧ください。
「膝の痛みに悩んでいたなんてすっかり忘れていた」手術をしない新しい治療法とは
PRPの成分
PRPに含まれる血小板には、傷ついた組織を修復する機能を持つ成長因子が多く含まれています。成長因子には、炎症を抑えたり、自己修復に必要な細胞増殖を促進し、関節軟骨の破壊を誘発する物質を軽減させる作用があるとされており、変形性膝関節症への有効性が実証されつつあります。実際に変形性膝関節症患者222名(303膝)を対象に、痛みの指標(VAS:Visual Analog Scale)と膝の機能・生活の質の指標(KOOS:Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score)を用いてPRP療法の効果を検証した研究では、62.7%の患者にPRP療法が有効だったとの報告がされています。(*4)
血小板に含まれる成長因子とそれぞれの機能としては、下記が挙げられます。(*3, 4)
血小板に含まれる成長因子 | 機能 |
---|---|
PDGF |
血管新生
細胞増殖
|
VEGF | 血管新生 |
TGF β |
細胞外基質産生
細胞増殖
|
FGF |
細胞増殖
血管新生
|
EGF |
MSCや内皮細胞増殖
他の成長因子を刺激
|
HGF |
血管新生
内皮細胞増殖
|
IGF1 |
筋芽細胞増殖
骨格筋修復
|
変形性膝関節症に対するPRP療法の効果
主な効果は「疼痛軽減」
PRP療法では、血小板に含まれるこのような成長因子が放出されることで、組織修復と抗炎症効果による疼痛軽減が期待できると考えられています。(*4)
ヒアルロン酸が効かなかった変形性膝関節症の膝306に対し、PRPを応用した技術「PFC-FD™療法」を実施した研究では、状態を100点満点で計測する方法で以下の結果が得られているという報告があります。
- 術後1ヶ月:23%改善
- 術後3ヶ月:29%改善
- 術後6ヶ月:32%改善
(*11)
この結果から、ヒアルロン酸では効果が実感できない変形性膝関節症に対し、痛みを、それも比較的長きに渡って抑えることができることがわかります。この持続性を活かし、痛みが引いている間に運動療法によって膝を鍛え、痛みを感じにくい環境を整えることも期待できます。
また、別の研究では302名の変形性膝関節症患者に同様のPRP応用技術を実施、1年後に29%疼痛が改善したとも報告しています。(*12)
以上のことから、PRP療法(およびPFC-FD™療法)は、変形性膝関節症の痛みを改善する効果が見込めると言えます。
その他の症状も抑制
痛みの抑制以外にも、変形性膝関節症の以下のようなさまざまな症状に対し、効果が見込めます。
- 膝の曲げ伸ばし
- 膝の腫れ
これらについては19~22%の改善が見られたとしています。
また、以下のような日常動作でどのくらいストレスを感じるかについても、13~14%の改善が見られたとしています。
- 階段昇降
- 立ち上がり
- 買い物
- ベッドからの起き上がり
また、RaeissadatらによるPRP療法とヒアルロン酸注射の効果についての研究では、PRP療法がヒアルロン酸注射よりも変形性膝関節症の症状を改善させ、QOL(quality of life:生活の質)を向上させたと報告されており、従来の治療法では十分な効果が得られなかった患者は検討する価値のある治療法であるとしています。(*5, 6)
さらに、変形性膝関節症が軽度の場合、7割程度の患者に効果があったことから、早期にPRP療法を行うことでより効果が出やすく、変形性膝関節症の進行予防が期待できることが示唆されています。(*4)(*12)
変形性膝関節症の進行度との関連性
PRP療法の変形性膝関節症に対する効果は、その進行度と関連があると言えます。
変形性膝関節症の182の膝にPRP療法を実施し、その効果を100点満点で採点した研究では、進行度が中期の膝では12.5点改善されましたが、一方で末期の膝においては10.8点改善されています。よって、進行度が浅い変形性膝関節症のほうがPRP療法の効果は出やすいと言えるでしょう。(*11) また、302名にPRPを応用した技術「PFC-FD™療法」を実施した研究でも、中期までの変形性膝関節症患者では70%で効果が見られた一方で、末期の患者では41%にとどまった、としています。(*12)
以上のことから、変形性膝関節症に対するPRP療法は、どちらかといえば変形性膝関節症の進行度が浅い・低い患者さんに適している、と言えるでしょう。ただし、上記研究の後者からもわかるように、末期の方でも一定数効果を実感する人もいらっしゃいますので、末期の方でも医師と相談して受けてみる価値はあるかもしれません。
変形性膝関節症以外の対象疾患
PRP療法は変形性膝関節症以外にも、スポーツ外傷・障害に対しても行われています。
具体的には、下記のような疾患が挙げられます。
- 上腕骨外側上顆炎
- 肘内側・外側上顆炎(テニス肘・ゴルフ肘)
- 尺側側副靭帯損傷
- 膝蓋腱炎(ジャンパー膝)
- アキレス腱炎
- 足底腱膜炎
- 肩腱板炎
- 筋・腱断裂
- 靱帯損傷
- 捻挫
- 肉離れ
特にスポーツをされている方は、早期復帰を望み、PRP療法を検討される方もいらっしゃいます。
安全性について
PRP療法は、厚生労働省が定める「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療法)」のもと、認可を受けた医療施設でのみ行うことができる治療法になります。PRPの調整を行う施設については厳しい安全基準が設けられており、PRP療法の施術の手順も詳細に決められています。
また、PRP療法は患者自身の細胞を使った治療法ですので、副作用などのリスクが低いとされており、比較的安全性の高い治療法であると考えられています。
PRP療法を検討すべき方
変形性膝関節症の方で、特に下記の条件に当てはまる場合は、PRP療法を選択肢のひとつとしてご検討ください。
- 痛み止めがあまり効かない
- ヒアルロン酸注射が効かない
- 何回も注射を受けたくない
- 現在行っている治療法で痛みが改善しない
- 手術をするほど重症ではないが、保存療法では効果が感じづらい
- 医師から手術を勧められたが、手術は避けたい
- 1回の治療で一定期間効果を持続させたい
※当てはまる方にPRP療法の効果を保証するものではございません。
PRP療法を受けることができない方
一方で、下記に当てはまる方は、PRP療法を希望されても治療を受けられないケースがあります。(*7)
- 出血傾向のある疾患がある
- 抗凝固薬を使用している
- 貧血の症状がある
- 局所に感染がある
- 重篤な感染症・感染を起こしやすい基礎疾患がある
- 発熱がある
- ケロイド体質である
- 同部位へのPRP注入間隔が3ヶ月に満たない
- 妊娠している
- 悪性腫瘍がある、もしくはその可能性がある
- 肝機能障害のある方
実際にPRP療法が適応かどうかや、PRP療法を受けられるかどうかは、医師による判断が必要になります。PRP療法をご検討の方は、まずは身近にあるPRP療法を行っている医療機関にてご相談ください。
PRP療法を受けるにあたって
治療の流れ
診察 | 膝の痛みなどの症状がいつ・どの程度生じるのかなど、膝の状態を把握し、PRP療法の適応であるか判断します。 |
採血 | PRPを作製するため、患者さまの血液を採取します。 |
PRP作製 | 採取した血液を遠心分離にかけ、PRPを作製します。 |
PRP注射 | 膝にPRPを注射します。注射の方法は、医療機関によって目視で行ったり、超音波画像で確認しながら行うなどさまざまです。 |
費用
PRP療法は保険が適用されないため、治療費は全額自己負担となり、保険診療で行われる治療よりも費用負担が大きくなります。
一般的には3万円〜が目安になります。自由診療であり、医療機関ごとに設定している金額が異なるので、具体的な費用を知りたい方は、PRP療法を実施している身近な医療機関にお問い合わせください。
メリット
入院不要
PRP療法は、原則、手術や入院の必要がない治療法ですので、日帰りで治療を行うことが可能です。
治療後も、日常生活での制限がほとんどないため、早期に復帰を希望するスポーツ選手などにも活用されています。
副作用のリスクが低い
先述でも触れましたが、PRP療法は、簡単にいえば、患者自身の血液を遠心分離にかけ、それにより血小板濃度の高くなった部分を、同じ患者さまの体に戻す治療です。よって、副作用のリスクが低いことも大きなメリットのひとつです。
デメリット
効果に個人差がある
PRP療法は、患者自身の血液から作られた薬液を活用する治療という性質上、効果に個人差があります。
アメリカでPRP療法を行っている286施設を対象に、PRP療法の価格と効果を調査した研究では、「7割以上の確率でPRP療法の効果がある」とした施設は78.5%だったとの報告もあり、必ずしも期待した効果が得られるわけではないとしています。(*5, 8)
効果が出やすいか出にくいかには、さまざまな要因が考えられます。現在、変形性膝関節症の治療を受けているが効果を感じられず、手術以外の改善方法を探している方は、まずはPRP療法を提供している医療機関にて、医師にご相談されると良いでしょう。
費用が高い
先述の「費用について」でも触れたように、PRP療法は保険が適用されず、自費診療となりますので、治療費が比較的高額になります。
感染症のリスクがある
注射を行う際、感染症のリスクがあります。ただしこれはPRP療法に限らず、注射を伴う治療法に共通するリスクになります。
PRP療法を応用した「PFC-FD™療法」
PFC-FD™療法とは、先述のPRP療法由来の治療法です。PRP療法と同様、血小板が持つ「成長因子」の力を活用する治療法になります。
PRP療法では血液を遠心分離して血小板を多く含んだ成分を使用します。PFC-FD™療法ではさらに、血小板に内包される成長因子を取り出して活用しますので、普段は血小板の殻に守られた成長因子を関節内へ直接浸透させることができます。
実は、関節内の軟骨や骨には血流が少ないため、他の体組織と違って血液中の栄養素が届きにくい組織といえます。故に、PFC-FD™療法やPRP療法は、損傷した関節の軟骨や骨に対し、本来は届きにくい栄養素を与えられる可能性のある治療、といえます。
ただし、これらの組織が栄養素に触れることにはなりますが、栄養素を取り込んで修復すると言い切れる事実は確認されていません。主に期待できるのは“数ヶ月間の疼痛緩和”です。
- 膝をひねったり回したりするときの痛み
- 膝を完全に曲げるとき・完全に伸ばすときの痛み
- 階段を上り下りするときの痛み
- 夜、寝ているときの痛み
これらのシチュエーションで痛みをどの程度感じるかを100点満点で採点する指標にて(KOOS指標)、PFC-FD™療法実施後1ヶ月後には11.5点、3ヶ月後には14.4点、半年後には16点の改善が見られた、とする研究があります。(*9)
また、PFC-FD™はPRPと異なり白血球成分を含まないため、患部への投与後、痛みが出にくいことも特徴のひとつです。(*10)
ただし、注射針を刺す痛みはありますし、投与後1週間ほど痛みが出たり、しばらく腫れている感覚になる、という報告もあります。
実際に施術を受ける映像をコチラの記事でもご紹介していますので気になる方はご覧ください。
治療についての詳しい内容や、お近くの提供クリニック、治療費用について聞きたい方は、下記ボタンからお近くの医療機関を探してみてください。
PFC-FD™療法についての詳細は
さらに詳しい内容についてはコチラの特集ページでご説明しています。もし現在の治療に満足できず、手術を避けたい場合、ぜひご覧ください。
下記についてお悩みの方はぜひご覧下さい。
- 自分の疾患に有効なのか
- どんな効果があるのか
- 費用はどのくらいなのか
- 近くで受けられるクリニックはどこか
実際に施術を受ける映像をコチラの記事でもご紹介していますので、合わせて施術時の実際の場面が気になる方は御覧ください。
PFC-FD™療法を受けられた患者さんインタビューが掲載されました。
重度(KL-4)の変形性膝関節症を患い、階段の上り下り、歩き始め、立ち上がりなどあらゆる日常生活動作で膝の痛みを抱えていた患者さま。
たくさんの医療機関をまわり治療を行ったそうですが、結果は思わしくなく「手術をするしかない」と言われ続けたそうです。
PFC-FD™療法の治療を選ばれた経緯や治療後の様子をご紹介しております。
治療に興味がある方はぜひご覧ください。
まとめ
変形性膝関節症は症状が悪化すると手術が検討される疾患です。ですが、「手術をしたほうが良い」と言われてすぐに手術に進める人はなかなか少ないのではないでしょうか。
もし、「現在受けている治療では満足できないけれど、手術は受けたくない」「手術の前に少しでも他の治療を試したい」というご希望があるのであればPRP療法を検討してみてはいかがでしょうか。
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※注釈
*1…齋田良知(2019). 明日から役立つ外来の工夫 (No. 17) PRP 療法.Loco cure= ロコキュア: 運動器領域の医学情報誌, 5(2), 166-171.
*2…介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会-厚生労働省.介護予防の推進に向けた運動疾患対策について 報告書.2008年7月.
*3…Taylor, D. W., et al. (2011). A systematic review of the use of platelet-rich plasma in sports medicine as a new treatment for tendon and ligament injuries. Clinical journal of sport medicine, 21(4), pp344-352.
*4…齋田良知(2020). 変形性膝関節症に対する新しい治療 “PRP 療法” について.Functional Food Research, 16, FFR2020_p124-129.
*5…戸田佳孝(2019).内側半月板の脱出を伴った変形性膝関節症患者への多血小板血漿注射の効果.別冊整形外科, 38(76), pp95-97.
*6…Raeissadat, S. A., et al. (2015). Knee osteoarthritis injection choices: platelet-rich plasma (PRP) versus hyaluronic acid (a one-year randomized clinical trial). Clinical Medicine Insights: Arthritis and Musculoskeletal Disorders, 8, CMAMD-S17894.
*7…厚生労働省(2018).PRP(自己血高濃度血小板血漿)療法治療説明書.
*8…Piuzzi, N. S., et al. (2019). What is the price and claimed efficacy of platelet-rich plasma injections for the treatment of knee osteoarthritis in the United States?. The journal of knee surgery, 32(09), 879-885.
*9…大鶴 任彦 et al. 変形性膝関節症に対するBiologic healing専門クリニックの実際とエビデンス構築. -基礎と臨床 2020年9月号 特集:幹細胞・PRP・衝撃波−Biologic healingのエビデンス. 関節外科. 2020年9月. vol.39 No.9. 945-954
*10…二木康夫(2020).再生医療とスポーツ医学 (第 4 回) PRP の膝関節内注入療法.臨床スポーツ医学, 37(4), pp478-481.
*11…鬼木 泰成, 是枝 健斗, 中村 英一, 髙木 克公, 藤本 昭二, 平井 康裕, 山隈 維昭, 大橋 浩太郎, 鬼木 泰博「変形性膝関節症の進行度の違いにおける膝関節内多血小板血漿療法の効果について」 整形外科と災害外科 2022 年 71 巻 3 号 p. 451-454
*12…Tadahiko Ohtsuru et al. 「Freeze-dried noncoagulating platelet-derived factor concentrate is a safe and effective treatment for early knee osteoarthritis」 Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy