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O脚とは
O脚とは、両膝が外側に湾曲し、脚を正面から見た際に「O(オー)」の形になっていて、両足のくるぶし同士をくっつけて直立したときに両脚の太もも・膝・ふくらはぎの間に隙間ができる状態のことをいいます。別名「内反膝(ないはんしつ)」や「ガニ股」などとも呼ばれます。
日本人はO脚の方が多いといわれていますが、O脚は見た目が悪いだけでなく、腰痛になりやすい・変形性膝関節症になるリスクが高いなど、健康面でも様々な影響を与えます。
本記事では、O脚が私たちの身体に与える影響やO脚の原因、予防方法について解説いたします。
O脚の症状
O脚の初期症状は、脚の見た目が「O」になるだけですが、症状が進行してくると、膝の痛みが生じてくることもあります。
さらにO脚は、足裏の筋肉を覆う足底腱膜(そくていけんまく)が炎症を起こし、痛みなどの症状が出る「足底腱膜炎」や、足の親指(母趾)が「く」の字となり痛みが出る「外反母趾(がいはんぼし)」などになる恐れもあります。
O脚のセルフチェック方法
まずは、ご自身がO脚かそうでないかを確かめるためのセルフチェック方法についてご紹介します。
【O脚のセルフチェック方法】
靴を脱いで、鏡の前で両脚をそろえて立ちます。
このとき、両脚の太ももの付け根、膝、ふくらはぎがくっついているかどうか、確認してみましょう。
太ももの付け根、膝、ふくらはぎがくっつく | → | まっすぐな脚 |
膝に隙間ができる | → | O脚 |
O脚に該当する方は、後述のO脚の進行防止や予防のための運動法を実践してみてください。
O脚と変形性膝関節症の関係性
先述でも「O脚と変形性膝関節症の関係性」については少し触れましたが、日本人がこの変形性膝関節症になる大きな要因の1つとされているのがO脚です。膝痛を訴える日本人のうち実に9割がO脚であるといわれています。(*1)
変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)は、加齢などにより膝関節の軟骨がすり減って炎症を起こし、痛みや腫れといった症状を引き起こす疾患です。
日本における変形性膝関節症の患者数は約2530万人程度とされており、60歳以上の方の有病率は、男性で45%、女性では70%にものぼるといわれています。(*2)
O脚の人は、体重がかかる軸となる線(ミクリッツ線といいます)が膝関節の内側にあり、体重が関節の内側にかかりやすくなっています。そのため、本来膝関節全体で支えるべき体重負荷が膝の内側に集中してしまい、次第に膝の内側の軟骨がすり減り、炎症を起こしやすくなってしまうのです。
O脚は自然には治らないため、膝の内側の軟骨は徐々にすり減り続け、変形性膝関節症の症状も進行しやすい状態が続くことになります。
そして膝の内側の軟骨がすり減ることによって、体重がかかる軸はさらに内側にずれていき、O脚の変形がより一層進行していくという悪循環に陥ってしまいます。
軟骨のすり減りが進むと、大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)と脛骨(けいこつ:すねの骨)が直接ぶつかるようになることもあります。そうなると、症状に個人差はありますが、強い痛みを感じたり、膝関節がスムーズに動かなくなってしまうことも考えられます。
そのため、変形性膝関節症の予防や、変形性膝関節症による膝痛の対策のためには、O脚の進行予防や、O脚の原因となる日常動作や習慣などの改善が大切です。
変形性膝関節症の症状についてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
変形性膝関節症の病態(症状)を医師が解説します。
O脚になる原因
O脚は、その原因によって「構造的O脚」と「機能的O脚」、もしくは「生理的なO脚」と「病的なO脚」に分類することができます。
ひとくくりにO脚といっても、その原因によって取るべき対処方法は異なってきますので、ここではそれぞれのO脚の分類について解説していきます。
構造的O脚と機能的O脚
構造的O脚は、遺伝や生まれつきの骨格が原因のO脚であるのに対し、機能的O脚は、普段の生活習慣が原因でなるO脚のことです。
構造的O脚の場合、整形外科にて専門医による診察・治療を受けることをおすすめしますが、機能的O脚の場合、原因となる生活習慣を改善することでO脚の進行をある程度予防することができます。
機能的O脚の原因としては、下記が挙げられます。
- 姿勢が悪い
- 筋肉のバランスが悪い
- 筋力が低下している
- 歩き方が悪い
- よく脚を組んでいる
- 靴のサイズが合っていない
普段の生活を思い返してみて思い当たる原因がある場合は、改善してみましょう。
具体的な改善方法は、後述の「O脚予防のために気を付けるべきこと」でもご紹介していますので、参考にしてみてください。
生理的なO脚と病的なO脚
O脚の分類の二つ目は「生理的なO脚」と「病的なO脚」です。
生理的なO脚
「生理的なO脚」とは、乳幼児の時期に、O脚やX脚の状態であることを指します。
通常、生まれてから2歳までの子供はO脚となっているのですが、2歳からおよそ6歳までに、O脚とは逆に脚が内側に曲がる「X脚」に近づきます。「X脚」は外反膝(がいはんしつ)とも呼ばれ、両膝が内側に曲がった状態で、左右の膝の内側をそろえても、両足のくるぶしの内側が離れてしまう状態のことを指します。
その後成長に伴い、X脚の外側への反りは弱まっていき、成人となる頃には、膝下が約4°とわずかに外側に曲がった状態になります。
このような発達過程は正常とされているので、あまり心配しなくても大丈夫ですが、中には以下のように注意すべきO脚もあります。
- O脚の程度が強いもの(お子さんをあお向けに寝かせた状態で、足の内側同士をくっつけ、膝と膝との間に3本以上の指が入る)
- 左右で膝の形が異なるもの
- 低身長を伴うもの
このような場合、先天的な骨の疾患や、骨の成長に障害が見られる疾患などの恐れがありますので、整形外科にて専門医による診察・治療を受けることをおすすめします(*n)。
病的なO脚
病的なO脚の原因としては、膝において下記の疾患などが挙げられます。
- 靭帯の損傷
- 外傷による変形
- クル病やブラント病などの形態異常
クル病は診断がしやすいのですが、一方のブラント病は、幼少期の生理的O脚と診断の区別が難しいので、経過観察が必要な場合があります。
O脚のデメリット
上記でもご説明したように、O脚は変形性膝関節症による膝痛の要因となりますが、その他にも様々なデメリットがあります。
見た目が悪くなる
まずO脚はガニ股になるため、見た目が悪くなります。
また、膝が曲がっているため、身長も実際よりも小さく見えてしまうこともデメリットとして挙げられます。
腰痛になりやすい
O脚になると変形性膝関節症になりやすく、膝痛などの症状が出やすいことは先述にてご説明しましたが、腰痛にもなりやすいこともデメリットとして挙げられます。
O脚の状態は骨盤に負荷がかかりやすいため、放置していると慢性的に腰痛になってしまう可能性があります。
疲れやすい
O脚の状態は下半身の筋肉に負担がかかりやすく、血流も悪くなりやすいです。
すると、効率よく身体が動かせなかったり、疲労物質の排出がスムーズに行われず、疲れやすくなる傾向があります。
下半身が太りやすい・むくみやすい
O脚は脚の外側の筋肉が発達しやすく、脚が太く見えやすいです。
また、血流やリンパの流れも悪くなり、脚に脂肪がつきやすく、むくみやすい体質になります。
O脚の治療
生理的なO脚は、ほとんどの場合自然に治りますので、治療は必要ないことが多いです。
また、機能的O脚は、O脚の原因となっている生活習慣の改善などである程度進行を予防することも可能とされています。
しかし、機能的O脚の中でも、O脚がかなり進行してしまった場合や、病的なO脚・構造的O脚で症状がひどい場合などは、治療の必要なこともあるので、お悩みの方は整形外科に行くことをおすすめします。
手術の際には基本的に、関節近くの骨を切ることで、膝関節の正常な部分に体重がかかるように矯正する治療である「骨切り術」が選択されます。
O脚予防のための運動法
O脚になると、膝関節は外に向かって湾曲する形になります。
そこで、膝関節が外側に曲がろうとする力に対して、内側に引き戻す力を強化することで、歩容(ほよう:歩く際の姿勢や動作など)や歩行状態が改善され、O脚の進行を防ぐことができます。また、O脚で膝痛のある方は、膝関節を内側に引き戻す筋力を鍛えることで、膝痛の改善も見込めます。
そのためには、大腿部(太もも)の内転筋(ないてんきん)・大殿筋(だいでんきん)や大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)、大腿二頭筋(だいたいにとうきん)、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、前脛骨筋(ぜんけいこつきん)などを鍛えると効果的です。
特に内転筋は、股関節を閉じるときなどに使われる筋肉で、O脚に深く関わる筋肉になります。この筋力が衰えると、膝を閉じる力が弱まってしまい、O脚傾向になりやすいです。
また、日頃から運動習慣をつけることで、糖尿病などの生活習慣病を避けることにも繋がります。糖尿病になり血がドロドロの状態になると、骨代謝や軟骨代謝が低下し、膝関節の変形が進行しやすくなります。そのため、こうした生活習慣病を避けるためにも、積極的に運動習慣を取り入れていきましょう。
ここからはO脚の予防や、O脚の歩行状態を改善するための運動法をご紹介していきます。
ただし、生まれつきや幼少期からのO脚、ブラウント病(Blount病:O脚になってしまう先天性疾患)などの疾患によるO脚、あるいは怪我が原因のO脚の場合などは、歩容や歩行状態の改善が難しく、手術が必要な場合もあります。
内転筋を鍛える運動(アダクション)
まずは先述でも少し触れた、筋力が衰えるとO脚になりやすい内転筋を鍛える運動からご紹介します。
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- まず床に横向きに寝て、ひじを枕にして頭をのせます。上側の手は、胸の前に置いて体を支えます。
- 下側の脚はまっすぐ伸ばし、上側の脚の太ももを下側の脚に対して直角になるように前に出して膝を90°曲げます。このときつま先は正面を向くようにしましょう。
- 伸ばした脚(下側の脚)を上に上げます。
- 3で上に上げた足を、床につかない程度に下に下げます。
- 2~4を、内ももを意識しながら20回繰り返します。反対の脚も同様に行います。
- 1〜5を1セットとし、1日3セットを目安に行いましょう。
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大腿四頭筋を鍛える運動
大腿四頭筋は太ももの前側にある筋肉で、歩く際などに膝を安定させる役割をしています。
下記の大腿四頭筋を鍛えるトレーニングによって、膝関節が外側に歪む力に対して内側に引き戻す筋力を強化でき、O脚の予防効果が見込めます。
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- 椅子に浅く座ります。
- 足首は90度の角度を保ったまま膝を伸ばし、その状態を5秒程度キープします。
- ゆっくりと脚を下ろします。
- 2~3を10回繰り返し、反対の脚も同様に行います。
- 1〜4を1セットとし、1日3セットを目安に行いましょう。
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骨盤の歪みを改善するストレッチ
骨盤のゆがみもO脚の原因のひとつです。
O脚の方のほとんどは、骨盤が後ろに傾いている傾向にあります。骨盤が後ろに傾いてしまうと、大腿骨は外向きに回転する形になり、O脚になりやすいのです。
そこで、骨盤のゆがみを改善するストレッチを行うことで、O脚の予防効果が見込めます。
下記にてそのストレッチ方法をご紹介します。
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- まずあおむけに寝転がり、膝を立てます。
- 両膝はつけたまま、左右に気持ちいいと感じる程度に膝を倒します。
- 2を数回繰り返します。
- 1〜3を1セットとし、1日3セットを目安に行いましょう。
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セラバンドを用いた運動
O脚予防の運動をする際には、自分である程度運動の強度をコントロールできるセラバンド(ゴムチューブ)を取り入れた運動がおすすめです。トレーニングジムなどにあるようなマシンを使うと、負荷がかかりすぎ膝に痛みが出る場合もありますが、セラバンドを用いれば、自身の体調や膝の状態に合わせて簡単に負荷の調整を行うことができます。
また、セラバンドは安価に手に入る上、一つあれば運動のバリエーションが広がることも、メリットとして挙げられます。
ここでは例として、セラバンドを使った内転筋・大腿四頭筋を鍛える運動法をご紹介します。
セラバンドを用いて内転筋を鍛える運動
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- 柱などにセラバンドの端をかけて、もう片方の端を自身の片脚にかけます。
- 脚を閉じるようにセラバンドを引っ張ります。
- 脚を元の位置に戻します。
- 2〜3を10回程度繰り返し、反対の脚も同様に行います。
- 1〜4を1セットとし、1日3セットを目安に行いましょう。
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セラバンドを用いて大腿四頭筋を鍛える方法
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- あおむけに寝転がり、セラバンドを肩の後ろに通します。
- 肩の後ろを通したセラバンドに両足を引っかけます。
- 適度な負荷がかかるように、膝を曲げた状態でセラバンドの長さを調整します。
- 足を斜め上方向に押し出すようにして、膝を伸ばします。
- 足をゆっくり元の位置に戻します。
- 4〜5を10回程度繰り返します。
- 1〜6を1セットとし、1日3セットを目安に行いましょう。
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O脚予防のために気を付けるべきこと
ここからは、O脚予防のために普段気をつけるべきことについてご紹介していきます。
下記にてご紹介することをO脚予防のための運動とあわせて行うことで、よりO脚予防の効果も得られやすくなりますので、ぜひ実践してみてください。
O脚予防のための歩き方
普段、ガニ股歩きになっていると、徐々に足が開き、O脚になりやすくなってしまいます。
そこで、O脚改善のために、歩く際に意識した方がいいことを下記にご紹介します。
- 背筋は伸ばして、重心は少し前にかかるよう意識しましょう。
- つま先は正面を向けて歩きましょう。(O脚の方はつま先が外に向く傾向があります)
- 足を踏み出す際は、いつもより1~2㎝高く足を上げるよう意識しましょう。
- 踏み出した足が地面に着くときには、足裏全体で着くようにしましょう。親指の付け根・小指の付け根・かかとの3点が地面に着くよう意識することで、衝撃やねじれを吸収でき、膝関節への負担を緩和できます。
- 歩いているときは膝を伸ばし切らず、軽く曲げた状態を保ちます。膝を伸ばし切った状態で足が地面に着くと、高いところから飛び降りたような強い衝撃が膝関節に伝わってしまいます。膝関節を軽く曲げた状態で足を地面に着けることで、膝関節に伝わる衝撃や負担を減らすことができます。
O脚予防のための座り方
正しい姿勢で座ることで、骨盤の歪みが改善し、O脚の予防効果も期待できます。
そのためには、下記にご紹介することを意識してみましょう。
- 椅子には深く腰掛けるようにします。
- 座面に対し、骨盤は垂直に立てるようにしましょう。これにより骨盤が後ろに傾いている状態を改善でき、膝が内側を向きやすくなります。
- かかとは床につけるようにしましょう。
- 両膝はつけた状態を保ちます。常に両膝をつけることで、内転筋の筋力を向上できます。
O脚の方は健康で規則正しい食生活を
健康的で規則正しい食生活は誰にとっても大切なことですが、O脚の方は特に意識しましょう。O脚になると、膝の内側に負荷が集中しやすくなり、膝関節内側の軟骨がすり減っていきます。そこに肥満が加わると、さらに膝への負荷が増加し、O脚の悪化や変形性膝関節症発症のリスクが高くなってしまいます。
また、食生活の乱れは、糖尿病などの生活習慣病のリスクも高めます。先述の「O脚予防のための運動法」でもご説明したように、こうした生活習慣病もO脚が進行する要因になります。
O脚や変形性膝関節症の予防のためには、日頃からしっかりと食習慣を管理し、体重を適正に保つことが大切です。
O脚の方は靴選びにも注意
O脚の方は、靴選びにも注意が必要です。脚にO脚変形がみられる方の中には、普段ハイヒールを履いている方もいらっしゃいます。しかしハイヒールは膝への負担を増加し、O脚を悪化させたり、膝に痛みが出やすくなってしまいます。男性でO脚の方の場合、ビジネス用の先のとがった革靴なども、避けた方がいいでしょう。
O脚の方には自分の足のサイズに合った運動靴がおすすめです。膝痛予防・対策にもなりますので、O脚や膝痛でお悩みの方はできるだけ運動靴を履くことをおすすめします。
膝痛でお悩みの方の靴選びについては、こちらの記事もご覧ください。
変形性膝関節症における靴選びのポイントについて医師が解説
まとめ
歩容や歩行状態を改善し、O脚の進行を抑えるためには、日頃から運動することが大切です。膝痛がある方は、膝に負担がかからない程度の運動を取り入れるようにしましょう。
また、変形性膝関節症は予防が何よりも大切な疾患です。O脚の進行を防止することは、変形性膝関節症の予防にもなりますので、O脚の方は本記事でご紹介したO脚予防のための運動法や注意点などを意識してみてください。
変形性膝関節症によるO脚にお悩みの方で、保険診療ができない、手術を勧められたけれどできれば手術は避けたいといった場合は、バイオセラピーも選択肢の一つになります。O脚や膝痛でお悩みの方は、こうした治療法も候補の一つとしてご検討いただければと思います。
バイオセラピーについて詳しく知りたい方は、こちらのページもご覧ください。
※注釈
*1…「COLUMN1 O脚・X脚診断。」,『Dr.クロワッサン 関節痛を自分で治す。』銅冶 英雄監修,2018年2月15日号,p.28-29,マガジンハウス.
*2…Yoshimura N, et al. (2009). Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. Journal of Bone and Mineral Metabolism. 27, 620-628.