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変形性膝関節症 PFC-FD ASC

2022.7.26/最終更新日:2023.9.22

膝の再生医療や関連技術一覧(2023年7月)|医師監修

取材先の医師とクリニック

大鶴 任彦 先生

(大宮ひざ関節症クリニック 院長)

膝の再生医療の概要

再生医療の広がり

変形性膝関節症をはじめとした膝疾患に対する再生医療は実用化されつつあります。とはいえ、世間でイメージされる「軟骨や骨の再生」という効果はまだまだ検証段階であり、実際には「痛みの軽減」や「膝の可動域や運動機能の改善」など、症状改善効果が主であり、主にその効果を目的として全国の整形外科でも一般患者向けに採用されつつあります。

当社が確認できる全国の再生医療や関連技術を提供する医療機関の数は2023年3月時点で1,500院を超えています。

 

本記事は以下のようなお悩みをお持ちの方に役立つ内容をまとめています。

  • 膝の痛みに、既存の治療では効果が得られない
  • 膝の再生医療はどこまで実用化が進んでいるか知りたい
  • ご自身やご家族で膝の再生医療を検討している

再生医療や関連技術による膝の治療について、2022年8月現在で最新の情報を、ひざの再生医療を専門に行う「活寿会 大宮ひざ関節症クリニック」でご活躍されていらっしゃる大鶴先生の監修の元に解説いたします。

実用化されつつある膝に対する再生医療は、臨床現場においてはどのような立ち位置か、またいくつかの論文や発表をもとにその効果はどの程度のものか、対象疾患について網羅的にご紹介いたします。

※本記事は論文や臨床情報をもとに再生医療や関連技術の実績をご紹介する箇所がございますが、すべての方に効果効能を保証・約束するものではございません。

立ち位置

まず、再生医療やその関連技術が膝の治療全体においてどのような立ち位置か解説いたします。

膝の再生医療の対象となる主な疾患は「変形性膝関節症」です。変形性膝関節症の患者数は日本では約2530万人といわれており、60歳以上の有病率は男性で45%、女性では70%にものぼるとされています(*1)。 高齢者で膝が痛む、膝がO脚に変形気味、という方はこの変形性膝関節症に罹患している可能性が高いです。

この変形性膝関節症に対し、これまでは主に“保存療法”と“手術”が行われてきました。“保存療法”の例としては膝にヒアルロン酸を注入するヒアルロン酸注射や、リハビリテーションが挙げられます。“手術”の例は脚の骨を切って関節角度を調節する骨切り術や人工関節置換術などがあります。

・骨切り術 ・人工関節置換術

 

ご紹介してきたように患者数が多く珍しくない膝の疾患である「変形性膝関節症」ですが、治療の流れとしてはまずは一定期間“保存療法”を行って効果が出なくなったり、症状が更に悪化・進行してくると“手術”を検討することが一般的です。ですが、保存療法が効かなくなったからといって、すぐには手術に踏み切れない方も多いのが実情です。

  • 「薬やヒアルロン酸は効かないけれど手術は怖い」
  • 「長年、整形外科に通っているけれど、良くならない」
  • 「手術はしたくないが、膝の痛みはなんとかしたい」

こういった方向けに、保存療法と手術の隙間を埋める治療として再生医療やその関連技術が選ばれています。

このように膝の再生医療は“保存療法”と“手術”の中間にあたる治療として活用され始めています。既存の保存療法が効かない場合でも除痛や日常生活動作改善の効果が見込め、手術を回避・遅延することが期待されています。

膝の再生医療 一覧

ここからは現在、膝の再生医療として実用化されている治療を紹介していきます。膝の再生医療を検討中の方は参考にしてみてください。

幹細胞治療(第二種再生医療)

概要

幹細胞は自己複製能や多分化能を有することから、診療科を問わず様々な分野で期待を寄せられています。滑膜や骨髄などからも採取することができますが、近年、局所麻酔下で日帰りで簡単に採取できる皮下脂肪から採取した幹細胞を培養し、それを変形性膝関節症患者の方の膝関節に注射する治療成績が多く報告されています。

培養幹細胞治療は2014年に施行された「再生医療等安全性確保法」の規定の中で行うことができます。注入した幹細胞が傷んだ組織に直接生まれ変わるイリュージョン的な治療ではなく、幹細胞から放出される液性因子のはたらきかけに、ホストである患者様の組織や細胞が応えることで、修復作用、抗炎症作用を期待する治療になります。

対象となる疾患

「変形性膝関節症」に対して用いられます。年齢による変化で軟骨がすり減り、関節内の炎症や痛みが生じる疾患です。

加齢や肥満、遺伝子が原因で発症する一次性変形性膝関節症と、外傷をきっかけに発症する二次性変形性膝関節症に分類され、患者様の多くは前者に当てはまります。超高齢化社会の日本においては、誰もが罹患しうる深刻な疾患です。

効果や治療実績

ひざ関節症クリニックグループで脂肪由来幹細胞(ASC)治療を行った患者様の経過観察時期を、治療から1か月後、3か月後、6か月後、12か月後に設定し、海外でも用いられている評価基準を用いて評価しました。

その結果、注射前と注射後12カ月後とを比較すると、統計学的有意差を持って、痛みや日常生活動作などのデータは改善していました。また約60%の患者様でレスポンダー(奏功した)という結果を得られました。

加えて、変形性膝関節症の初期、進行期、末期で治療経過を比較すると、病期が浅いほど(つまり初期に近いほど)治療効果が出やすいことが分かりました。(*2,3,4)

また治療方法の有効性を検証するためには、患者主体評価だけではなく客観的評価が大切です。MRIを用いて、軟骨体積にどのような変化が出るか調査した結果、病期の進行した症例の場合、後述するPFC-FD療法と併用する治療が、最も軟骨体積が増加する可能性が分かってきました。(*5)

 

治療の流れやより詳細な内容については「ひざ等への再生医療「脂肪由来幹細胞(ASC)治療」とは」もご参照ください。

費用

脂肪由来幹細胞(ASC)治療は自由診療になるため、費用は全額患者様負担となります。費用は各医療機関ごとに異なり、通常は100万円を超える治療です。正確な費用については各医療機関に直接ご確認ください。

 

下記ボタンより脂肪由来幹細胞(ASC)治療を提供している全国の医療機関を調べることができます。

 

ASC治療を含むバイオセラピーについては、こちらのページでもご紹介しています。
ASC治療に興味のある方は、ぜひご覧ください。

ひざ関節の悩みに手術のいらない新治療を。

PRP療法(第二種/第三種再生医療)

概要

PRP (Platelet-Rich Plasma)とは、患者さんから採取した血液を遠心分離して得られる、血小板を多く含む分画である多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう)のことを指します。

このPRPを膝関節に注射することで、血小板内の成長因子やサイトカイン(周囲の細胞に影響を与えるとされるタンパク質の一種)の組織修復や抗炎症・除痛効果を期待した治療になります。

施術は採血と遠心分離を行った液体(血漿)の投与のための注射が必要ですが、手術や入院などは必要ありません。通常数回の通院で完了することがほとんどです。

対象となる疾患

主に活用される疾患としては「変形性膝関節症(第二種再生医療になります)」が挙げられます。またスポーツ選手に用いられることも多く、元ヤンキースの田中将大選手や、エンゼルスの大谷翔平選手が、右肘の靱帯損傷でPRP療法を行なったことでも知られています。

効果や治療実績

PRP療法における主役、血小板には下記のような様々な成長因子が含まれています。

  • PDGF…血管新生・細胞増殖
  • VEGF…血管新生
  • TGF β…細胞外基質産生・細胞増殖
  • FGF…細胞増殖・血管新生
  • EGF…間葉系幹細胞や内皮細胞増殖・他の成長因子を刺激
  • HGF…血管新生・内皮細胞増殖
  • IGF 1…筋芽細胞増殖・骨格筋修復

(Taylor DW et al. Clin J Sport Med 2011; 21: 344-352)

 

血管の新生や細胞の増殖など、修復を促進する因子群が含有されています。とはいえ、PRPの主な効果は修復よりも痛みの低減などの抗炎症作用のほうが強いとされています。

変形性膝関節症750膝におけるPRP療法において、治療1年後に奏功したと判断されたのは全体の59.0%であったことが報告されています。(*6)

自家培養軟骨移植術(再生医療製品を用いた治療)

概要

自家培養軟骨移植術とは、自分の軟骨細胞を培養して欠損部分に移植する再生医療です。

対象となる疾患

外傷性軟骨欠損症や離断性骨軟骨炎において、軟骨の損傷サイズが計4㎠以上のケースに適応となります。

外傷性軟骨欠損症とは、スポーツでの接触や、交通事故での衝撃など、外傷を原因として軟骨が欠損してしまう病態です。

離断性骨軟骨炎とは、成長期の小中学生などに見られる疾患で、スポーツなどの繰り返される関節軟骨への負荷や外傷をきっかけに血流障害を起こし、軟骨の下にある骨が一部壊死してしまうことで軟骨が遊離(剥がれる)してしまう病態です。

ただし、自家培養軟骨移植術は、変形性膝関節症に対しては治療が認められていません。

効果や治療実績

軟骨欠損症に対する自家培養軟骨移植術の治療成績の報告では、14人の患者に手術を行い、術後1年~6年の経過観察の結果、明らかな痛みを訴える患者はいなかったことが報告されています。(*7)

膝の再生医療関連技術

PFC-FD™療法

概要

PFC-FD™療法はPRPを応用した技術です。PRPと比較して、血小板内の成長因子が安定して抽出できる事、常温保存が可能なため、患者さんの都合に合わせて注射日を自由に選択できる事が長所です。なおPFC-FDは作製工程でフィルタリングする際、白血球などの細胞成分を除去するため、再生医療であるPRP療法をもとにした技術である一方、厚労省の定めた再生医療等安全確保法の規定からは除外されます。

PFC-FD療法はPRP療法同様に血液を遠心分離して作製した血小板を濃縮した液体(血漿)に、さらに血小板内の成長因子を活性化させる処置を施し凍結乾燥させます。投与するときは医療機関で生理食塩水で溶解して投与します。

対象となる疾患

下記の疾患に用いられます。

  • 変形性膝関節症
  • 半月板損傷
  • 筋腱の損傷や炎症
  • 変形股関節症
  • テニス肘
  • ゴルフ肘
  • 肩・足首・手首の炎症

変形性膝関節症への投与が主ですが、様々な疾患に用いられ始めています。

効果や治療実績

痛みの低減

関節内で炎症を起こしている疾患に対し、PFC-FD™を関節内に注入(注射)することで炎症を抑制し、痛みや腫れの緩和が期待できます。

変形性膝関節症に罹患している306膝にPFC-FD™療法を実施、1ヶ月後には痛みが23%改善、半年後も32%改善していたことが報告されています。(*4)。また、別の研究では302名に投与し、1年後に痛みが29%改善していたことが報告されています。(*9)

軟骨体積の増加

またPFC-FD™療法の前後で、MRIを用いて軟骨体積を客観的に測定したところ、変形性膝関節症76膝において治療後平均8ヶ月で統計学的有意差を持って軟骨体積が増加していた、という報告もあります。(*5)さらに、2022年、本記事監修者である大鶴任彦先生の最新学会報告により、PFC-FD™療法を1回注射した42膝と月に一回の頻度で3回注射した38膝において、MRIを用いた治療前後の軟骨体積を比較したところ、3回注射のほうが軟骨体積が増加していたことも明らかになっています(*8)。

効果には個人差

もちろん、一定の効果は認められていますが、薬剤や手術と違い、自己血液を活用する治療であるため効果には個人差が大きく、PFC-FD™療法を受けるすべての方にこの効果を保証するものではございません。

それでも飲み薬やリハビリ、ヒアルロン酸を始めとした保存療法を長期間実施したが改善せず、医師から手術を勧められているが手術は怖い、という方は一度PFC-FD™療法を検討されるとよいかもしれません。

全国でPFC-FD™療法を採用している施設は850あり(2022年3月時点)、下記ボタンから検索できます。

費用

PFC-FD™療法は自由診療であり、治療を提供しているそれぞれのクリニックによって費用が異なります。相場は25〜35万円ほどです。

 

PFC-FD™療法を含むバイオセラピーについては、こちらのページでもご紹介しています。

PFC-FD™療法に興味のある方は、ぜひご覧ください。

ひざ関節の悩みに手術のいらない新治療を。

PFC-FD™療法についての詳細は

さらに詳しい内容についてはコチラの特集ページでご説明しています。もし現在の治療に満足できず、手術を避けたい場合、ぜひご覧ください。

下記についてお悩みの方はぜひご覧下さい。

  • 自分の疾患に有効なのか
  • どんな効果があるのか
  • 費用はどのくらいなのか
  • 近くで受けられるクリニックはどこか

実際に施術を受ける映像をコチラの記事でもご紹介していますので、合わせて施術時の実際の場面が気になる方は御覧ください。

PFC-FD™療法を受けられた患者さんインタビューが掲載されました。

重度(KL-4)の変形性膝関節症を患い、階段の上り下り、歩き始め、立ち上がりなどあらゆる日常生活動作で膝の痛みを抱えていた患者さま。

たくさんの医療機関をまわり治療を行ったそうですが、結果は思わしくなく「手術をするしかない」と言われ続けたそうです。

PFC-FD™療法の治療を選ばれた経緯や治療後の様子をご紹介しております。

治療に興味がある方はぜひご覧ください。

膝の再生医療まとめ

膝の軟骨がすり減ると再生は見込めず、それは現在の再生医療をもってしても、いまだ困難であると言わざるを得ません。

しかし、軟骨の摩耗に伴う痛みや可動域制限を改善させ日常生活動作への寄与を期待できる治療が現れつつあります。

ヒアルロン酸注入や電気・低周波治療といった従来の保存的治療で効果が出ず手術は受けたくない、という方はぜひ一度再生医療を検討してみてください。

また、手術のいらない再生医療やバイオセラピーについては、下記ページでもご紹介しています。興味のある方はぜひこちらもご覧ください。

ひざ関節の悩みに手術のいらない新治療を。

 

 

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※引用文献

*1…Yoshimura N, Muraki S, Oka H, et al. Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. Journal of Bone and Mineral Metabolism 2009: 27,:620-628.

*2…Yokota N, Hattori M, Ohtsuru T, et al. Comparative Clinical Outcomes After Intra-articular Injection With Adipose-Derived Cultured Stem Cells or Noncultured Stromal Vascular Fraction for the Treatment of Knee Osteoarthritis. Am J Sports Med 2019 ;47 :2577-2583.

*3…Yokota, N, Yamakawa, M, Shirata, T, et al. Clinical results following intra-articular injection of adipose-derived stromal vascular fraction cells in patients with osteoarthritis of the knee. Regen Ther 2017:6 :108-112.

*4…大鶴任彦,横田直正,尾辻正樹,ほか.  変形性膝関節症に対するBiologic healing専門クリニックの実際とエビデンス構築.  関節外科 2020:39:945-954.

*5…大鶴任彦,前川祐志,尾辻正樹,ほか.変形性膝関節症に対するバイオセラピ-におけるSYNAPSE VINCENTを用いた関節軟骨評価.関節外科 2022:41:545-549.

*6…齋田良知, 若山貴則,内野小百合.PRP. 関節外科 2019:39:939-944.

*7…Takazawa K, Adachi N, Deie M et al:Evaluation of magnetic resonance imaging and clinical outcome after tissue-engineered cartilage implantation.-Prospective 6-year follow-up study-.J Orthop Sci 201214:413-424

*8…大鶴任彦,横田直正,前川祐志,ほか.変形性膝関節症に対するPFC-FD治療におけるMRI三次元自動解析ソフトウェアを用いた関節軟骨評価-単回注射vs.3回注射-.日整会誌2022:96:S147.

*9…Tadahiko Ohtsuru et al. 「Freeze-dried noncoagulating platelet-derived factor concentrate is a safe and effective treatment for early knee osteoarthritis」 Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy

 

※参考資料

…関西医科大学雑誌 59巻 (2007) 2-4 号「ヒト脂肪組織由来幹細胞の分離と脂肪・骨・軟骨への分化  ー幹細胞の供給源としての脂肪組織ー」覚道 奈津子 et al.

…臨床スポーツ医学 Vol.37 No.7 「変形性膝関節症に対する再生医療を利用した保存療法の実際 – PRP・間葉系幹細胞・セルフリー療法 -」桑沢綾乃,仁平高太郎

…齋田 良知 講演「変形性膝関節症に対する新しい治療“PRP療法”について」Functional Food Research 2020 年 16 巻

…Regenerative Therapy11 (2019)5-7 「Can intra-articular injection of freeze-dried platelet-derived factor concentrate regenerate articular cartilage in the knee joint?」 Tomohiko Shirata,Yuki Kato

…戸田 佳孝. 変形性膝関節症に対する多血小板血漿注射の効果と内側半月板逸脱との関連性. 日本関節病学会誌. 2020年. 39巻1号. 15-20

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