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靭帯 前十字靭帯

2020.6.5/最終更新日:2023.3.17

膝前十字靭帯損傷とその治療法について

取材先の医師とクリニック

前田 朗 先生

(まえだ整形外科 博多ひざスポーツクリニック 院長)

膝前十字靭帯とは

膝の前十字靭帯は、膝関節の真ん中で大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)と脛骨(けいこつ:すねの骨)をつなぐ、強靭なコラーゲンの繊維束です。膝関節内で十字に交差した2本の靭帯のうち、前方に位置しているものを膝前十字靭帯と呼びます。

大腿骨の後ろから脛骨の前方につながっており、脛骨が前にずれることを防いで関節が異常な角度に曲がることを阻止することにより関節を保護する役割を持ち、それと共に膝関節が滑らかに動くように補助する役割もあります。

この膝前十字靭帯がなんらかの原因で損傷、または断裂することを「膝前十字靭帯損傷」といいます。

膝前十字靭帯の損傷

膝前十字靭帯損傷の症状

膝前十字靭帯損傷は一度の大きな外傷(アクシデント)で発生します。受傷時のもっとも特徴的な症状は、激しい痛みの急な発現です。

スポーツ活動中であれば、膝関節の痛みや不安定感のためにプレーの続行が不可能になることがほとんどです。下記に特徴的な症状を例として記載いたします。ただし、あくまでも参考ですので自己判断せず、正確な診断や治療のためには整形外科で診察をうけてください。

  • 「ブチッ」と断裂音が聞こえた感覚
  • プレー続行できないほどの痛み
  • 膝になんとなく不安定感を覚える
  • 膝に力が入らない
  • 膝の曲げ伸ばしが困難に
  • 徐々に膝内部に血が溜まることによる腫れ

ひどい場合には半月板も同時に損傷してしまい、ある角度以上に膝を曲げ伸ばしできなくなる”ロッキング”という状態になることもあります。

放置した場合

膝前十字靭帯損傷を放置したとしても、時間と共に徐々に痛みが引いていきます。ただし、痛みが引くことと損傷の修復とは関係がなく、殆どの場合で治っていないので、痛みがなくなったからと言って勝手に安心せずに整形外科専門医を受診しましょう。膝前十字靭帯は、損傷しても時間が経過すると日常生活や歩行ができてしまうことがあるために「治った」と勘違いしやすいです。

また、治療せずそのまま放置すると、膝がガクッと崩れる”膝くずれ”という症状を繰り返し起こしやすくなります。この現象が繰り返されると半月板損傷を引き起こしたり、年月をかけて関節内の軟骨や骨を損傷・変形させて変形性膝関節症に発展してしまいますので、安易に自己判断せずにきちんと治すことが肝要です。

膝前十字靭帯損傷の原因

主な原因としてはスポーツ中の膝への過度な負荷が挙げられ、ジャンプや着地、急激な方向転換、他選手との接触(コンタクト)などで受傷します。

下記に原因となるスポーツを系統分類別に挙げています。基本的に膝に大きな負荷の加わる可能性のあるスポーツや身体活動すべてにおいて、受傷のリスクがあると言えます。

コンタクトスポーツ:ラグビーやアメリカンフットボール、柔道など

他の選手との接触によって、本来曲げてはいけない角度まで膝が曲がって受傷することがあります。

ジャンプスポーツ:バスケットボール、バレーボール、ハンドボールなど

ジャンプの着地による衝撃で受傷することがあります。

体育館の床はストップがかかりやすいのでジャンプ着地やカット動作で膝に過度の負荷がかかりやすい傾向があります。

フェイントや切り返しの多いスポーツ:バスケットボールやサッカーなど

他人との接触はなくても急な切り返しによって無理な動きをしてしまい、膝前十字靭帯の可動域を超えて受傷につながることがあります。

スポーツ活動に戻りたい場合(手術法)

膝前十字靭帯再建術(自家腱移植による)

膝前十字靭帯は自然治癒する確率が極めて低く、スポーツ活動に戻れるほどに運動機能を回復させたい場合、他の組織を用いて膝前十字靭帯を再建する必要があります。

この手術は「前十字靭帯再建術」と呼ばれ、一般的には患者さんご自身から採取した”腱”を用いて、損傷した膝前十字靭帯に再建をおこなう手術で、十字靭帯損傷では広く用いられる治療です。受傷前の水準でのスポーツ復帰にはおよそ1年近くかかります。

一般的に再建のために採取される”腱”は、太もも裏に存在して膝の屈曲に作用している半腱様筋腱または膝の前面にあって膝伸展に作用する膝蓋腱の一部を使用します。これらの部位は採取することで一時的に筋力などが低下しますが、術後にきちんとリハビリテーションを行うことで回復させることができるという理由から、十字靭帯再建に使用されることが多い腱です。

膝前十字靭帯再建術後のリハビリ

膝前十字靭帯再建術後のリハビリには段階があり、大まかには術後0〜3ヶ月、術後3〜6ヶ月、術後6ヶ月以降、というふうに分かれます。それぞれの状況や戻りたいスポーツ、そして術後の経過に合わせてリハビリ内容は変わりますので、ここでは大まかに説明します。

術後0〜3ヶ月

術前術後に低下した筋肉を強化します。再建後の靭帯がまだ安定せず、走ったりできない時期なので、過度な負担のかからない安全な動作によって筋力強化を行い、膝の可動域(曲げたり伸ばしたりできる角度)を回復させます。

術後3〜6ヶ月

スポーツに向くようなすこし複雑な運動の訓練を行います(協調運動)。再建した靭帯に過度な負荷がかかりすぎないように注意しながら、徐々にジョギングからスピードをあげたランニングを行います。ステップ動作やカット動作、バランス訓練なども段階的に取り入れます。

術後6ヶ月〜

復帰したい種目に必要とされる動きを想定した訓練をしていきます。

また、靭帯損傷をきたした方の中には”靭帯が切れやすい”着地方法や走り方をしている方がいるので、動きの癖を修正していきます。怪我を後ろ向きにとらえるのではなく、怪我をしたからこそ靭帯に向き合うことができるので、より良い状態を目指していく時間と捉え、医師やトレーナーと共に来院時よりも良い状態を目指しましょう。

再断裂の確率は5~10%と言われているので、この時期はその確率をなるべく低くしていくための大事な期間です。

膝前十字靭帯再建術とバイオセラピー

我々整形外科医が行う膝前十字靭帯再建術は、靭帯がもとあった場所に正確に移植腱を設置し新たな靭帯の足場を作る手術です。移植腱を足場にして正常に近い靭帯を手に入れるためには様々な因子が絡んできます。

そこで、再建術という外科治療にプラスして、この修復過程を補填したり早めたりできるのであれば、血液中の成長因子を活用するPRP療法やPFC-FD™療法といったバイオセラピーも活用できるのではないかと期待できます。また、その他にも幹細胞治療を始めとする再生医療も応用できる可能性があると思います。これからの研究に期待したいと思います。

また、合併して起こる、軟骨損傷や半月板損傷などに対しても、今後の研究次第ではありますがこういった新しい治療を活用する可能性はあるのではないかと思います。

手術をしないで、日常生活に戻りたい場合

保存療法を行うことも

膝前十字靭帯損傷した際に、もし今後、スポーツ活動の継続を希望しない場合、激しいアクティビティをもうしないという方など、膝への体重負荷が強くない生活を送るという場合には手術をしないという選択肢もあります。ただし、膝前十字靭帯は損傷したままですのでふとした拍子に膝がガクッと抜ける”膝くずれ”を起こすリスクがあり、それによって軟骨や半月板の損傷を生じたりします。また、長年繰り返すことによって変形性膝関節症に発展する恐れがあります。よって年齢が若い方は手術が望ましいと言えます。

手術を行わない場合には日常生活で”膝くずれ”を起こさないように注意が必要です。たとえば、階段を駆け下りたりしないようにしたり、でこぼこしているような不安定な足場を歩かないように注意しなくてはいけません。また、急に姿勢を崩したときに膝前十字靭帯が損傷していることによって踏ん張ることができないために転倒してしまうこともあります。

それゆえサポーターの着用や、膝周辺の筋力強化などの対策を行い膝を支える筋肉を強化して合併症の予防を目指すことになります。筋肉もただボリュームがあれば良いというものではなく、うまい筋肉の使い方が重要になりますので、きちんとした指導を受けて日常生活に戻ることが大切です。

保存療法を選択した場合でも、膝の不安定感などの症状が続く場合は手術を決断されることをお勧めいたします。

膝前十字靭帯損傷についてのまとめ

まずは怪我をしないことが一番で、普段の準備や集中してスポーツ活動を行うことが大事です。シューズの選択や運動環境の整備なども大切です。ただし、不幸にも怪我をしてしまった場合、そこからどうやって復帰するか、気持ちと頭を切り替えて行く必要があります。

現在、多くの実践と研究によって膝前十字靭帯再建術はかなり進歩し普及してきています。ラグビー日本代表としてワールドカップで活躍した福岡堅樹選手のように両膝の前十字靭帯が断裂しても,きちんとした手術とリハビリによって素晴らしいパフォーマンスを発揮する選手も多く存在します。ですから、受傷しても「すべてが終わった」と諦めず、信頼できる医師と方針を話し合い、前を向いてほしいと思います。

膝前十字靭帯を損傷したときには、まずは冷静にドクターやトレーナーのアドバイスを聞き、焦らずに治療やリハビリをすすめて、治ったときは怪我する前以上のパフォーマンスを出せるような”準備”の時間にしてほしいです。

 

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