椎間板性腰痛とは?
椎間板性腰痛の実態
椎間板性腰痛を含む、腰痛に悩む人は全世界で推定6億3200万人いるとされ、米国における社会経済コストは年間1000億ドルを超えると言われています。
日本においても腰痛を抱えている人は4人に1人とも言われ、医療費は年間1700億円にまでのぼると推計されています。
腰痛発症の直接的な原因はいまだに解明されていない点が多いですが、腰痛は本稿で紹介する「椎間板性腰痛」である場合も少なくありません。(*1)
腰痛は様々な要因が重なり発症することが多く、その根本的な原因を特定することは容易ではありません。(*2)
本稿では、椎間板を原因として発症する「椎間板性腰痛」についての解説を進めていきます。
椎間板(ついかんばん)の役割
そもそも椎間板とはなにで、どこにあるのか、そしてその役割をここで説明します。
私たちの背中にある背骨は、頭の下から骨盤の上まで24個の椎骨(ついこつ)と呼ばれる小さな骨でできており、そのすべての隙間にクッションとして存在しているのが「椎間板」です。
椎間板は背骨にかかる外部からの衝撃を吸収する役割や、動きの支点となる大切な役割を担っています。
椎骨の各名称は頸椎(けいつい)・胸椎(きょうつい)・腰椎(ようつい)と呼ばれ、その下に仙骨(せんこつ)、尾骨(びこつ)で構成されており、全体で「脊柱(せきちゅう)」とも呼ばれています。
椎間板は3つの構成要素で形成されています。外側は「線維輪(せんいりん)」というコラーゲン線維でつくられ、椎間板の中心部にはゼリー状の「髄核(ずいかく)」というものが内包されています。
椎間板の上下には「終板(しゅうばん=神経の末端が結合している部分)」という、椎間板を挟むような構造が存在します。
正常な椎間板には神経組織は通っておらず線維輪の外部や終板にのみ存在しているため、本来は椎間板自体に痛みを感じることはありません。
では、なぜ痛みを感じない椎間板で腰痛が起こるのでしょうか。
椎間板性腰痛が起こる原因
椎間板性腰痛は次の通り2段階に分かれて発症すると考えられています。
①椎間板の変性
②それに伴う神経線維の浸潤
それぞれ詳しく説明します。
椎間板の変性
椎間板は椎骨を挟む重要なクッションの役割をしています。しかし加齢によって筋肉量が減少し(*16)椎間板への負荷が大きくなることで椎間板外側の線維輪が損傷してしまうことがあります。
このように線維輪が損傷するなど、椎間板が傷つき変形することを「椎間板の変性」と言います。
また年齢が若くても、アスリートなど日頃から身体を駆使する人や、腰への負担が多い職種を仕事としている人も線維輪の損傷が起こりやすいとされています。
腰痛と仕事との関連を調べた職業別の調査結果では、その関係率が運輸71%〜74%、清掃69%、看護46%〜65%、介護63%などと報告されており、身体的な負荷が多い仕事が腰痛を引き起こす原因となっている例が多く見受けられます。
さらに仕事や職場における心理的な原因(仕事に対する満足度・職場における人間関係・精神的ストレスなど)が腰痛の発症やその後の経過に関連しているとする研究結果もあります。(*3)(*4)
神経線維の浸潤
線維輪が損傷して椎間板が変性すると、その亀裂から神経線維が浸潤することがあります。実際に、腰椎手術を行った患者から線維輪の採取を行ったところ、変性した椎間板内に神経線維が深く進入していたことが確認されました。(*17)
さらにこの研究では、椎間板性腰痛の患者へ、神経線維が浸潤していたとされる範囲まで局所麻酔薬によるブロック注射(痛みのある部位の神経の近くに麻酔薬を注入し、一時的に神経の興奮を抑え、痛みを軽減する治療のこと)をし、痛みが消失したことも確認されています。
このように本来は神経が通っていない椎間板でしたが、変性し内部に血管や神経線維が進入することで痛みを感じるように変化してしまうということがこの研究から分かります。
ブロック注射に関しては腰痛に対して多く施される治療法なので、後述の「治療法②ブロック療法」にて詳しく解説します。
椎間板性腰痛の診断を確定する際は通常レントゲンでは所見を確認することができないため、MRI検査(磁気共鳴画像)を用いることが一般的とされています。
MRI検査では、問題がない椎間板は白く映りますが、神経線維が浸潤し変性している椎間板は黒く映るので、はっきりと確認することが可能です。
椎間板ヘルニアとの違い
椎間板障害の中でよく耳にする疾患に「椎間板ヘルニア」がありますが、椎間板性腰痛とははっきりとした違いがあります。
本稿で紹介している椎間板性腰痛は、傷ついた椎間板に神経線維が入り込むことで痛みが生じる「侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)」と呼ばれる痛みに分類されます。痛みを感知する感覚器が炎症などの何かしらの刺激を受けて痛いと感じる仕組みのことです。
これは「切り傷・骨折・やけど」などと同じ痛みの種類とされています。
一方で椎間板ヘルニアは、損傷し変性した椎間板が押されることで外に飛び出し、椎間板の外にある神経に触れることで痛みを感じる「神経因性疼痛(しんけいいんせいとうつう)」と呼ばれる痛みに分類されます。
これは神経の障害から起こる痛みで、「糖尿病・帯状疱疹・がんの化学療法」などと同じ痛みの種類として分類されています。
椎間板性腰痛の症状と椎間板への負荷
主症状
椎間板性腰痛の主な症状として以下のものが挙げられます。
ー座ると痛い
ー腰を曲げると痛みがひどくなる
ー長時間の同一姿勢がつらい
ーソファが苦手
ー座っていると自然に腰が伸びてくる(腰を伸ばしている方が楽)
痛みの特徴として、腰の奥が重だるい・重苦しい痛みを感じるという方が多いようです。
椎間板への負荷を調べた実験
静止した状態での4種類の姿勢に対し、椎間板にはどれくらいの負荷がかかっているのか調べた実験をご紹介します。
対象の姿勢は以下の通りです。
(1)直立の姿勢
(2)(1)から上半身を20度前に倒した姿勢
(3)背もたれのない椅子にまっすぐ座った姿勢
(4)(3)から上半身を20度前に倒した姿勢
実験は以下のような結果になりました。
被験者3名のうち、程度の差は若干あるものの椎間板への負荷は全ての人が共通しており、腰を曲げるよりまっすぐの姿勢、座るより立っている姿勢のほうが負荷が少ないということがこの結果から分かります。(*5)
これまで説明したように、椎間板は腰を支える重要な役割を担っていることから、どのような姿勢が腰痛を促進させてしまうか、また腰痛の予防に繋がるのかといった「姿勢」に対する意識を持つことが大切です。
例えば、椎間板への負荷が多いとされる腰を曲げる姿勢を避けることは有効な対策です。
もし腰を曲げる必要がある際は、膝も一緒に曲げることで椎間板への負担を減らすことができます。
また重い荷物を持つことも椎間板への負荷が多いとされていることから、一度に持たない、または複数人で持つようにするなども有効な対策と言えます。
姿勢や動作は癖になってしまう部分でもあるので、日々の生活の中で正しい姿勢を心がける必要があります。
治療法①保存療法
薬物療法
椎間板性腰痛の治療法として薬物療法は非常に有効な手段として一般的に広く用いられています。
腰痛診療ガイドラインでは、その推奨度について「1:強い(行うことを強く推奨する)」とし、根拠の強さを「B: 効果の推定値に中程度の確信がある」としています。(*4)
検証する上で、対象の薬剤とプラセボ(偽薬)との無作為な比較試験の結果から推奨度を導き出しており、信頼性は高いと言えます。
また、「痛みを感じている患者の多くは投薬を希望し、拒否する人は少ない」ことに加え、「極端に高額な鎮痛薬は存在せず、保険診療で患者が負担するコストは許容範囲内と考えられる」という点も推奨度が高い一因として考えられます。
しかし手軽に取り入れられる一方で、症状の程度により適合する薬剤は異なる可能性があることや副作用についても考慮する必要があるため、医師による正しい診断が必要です。(*3)
さらにガイドラインでは、「痛みの緩和」に対する薬物療法の効果は認められている一方で、「機能の改善効果が得られない症例も存在する」としており、薬物療法が腰痛の根本的な治療として確立できるとは言い難いとも言えます。
運動療法
運動療法も薬物療法同様、その有効性は推奨されています。
腰痛診療ガイドラインでは、椎間板性腰痛にも当てはまる慢性的な腰痛に対しての運動療法について、推奨度が「1: 強い(行うことを強く推奨する)」である上、根拠の強さを「B: 効果の推定値に中程度の確信がある」としています。(*4)
一方で、痛みが突然あらわれる急性腰痛には効果が認められていないことや、長期的な追跡検証が行われていないこともあり、腰痛に対する運動療法に関しては今後さらに研究を進めていく必要があるとも言えます。
また取材医師によると、筋肉の異常による腰痛など、腰痛が起こっている原因によっては運動療法の効果が発揮される場合があるものの、椎間板性腰痛に対してはその効果が限定的になることもあるとのことです。
運動をすることによって余計に腰を痛めてしまう原因にもなりかねないので、運動療法を行う際は医師の指導のもと行う必要があると言えます。
〜自宅でできる運動療法の参考例〜
※無理をせず、少しでも異常を感じたら中止してください。
まず運動療法の目的として、体幹の安定性向上と正しい姿勢の獲得が挙げられます。日常生活で姿勢と腰痛は密接に関連しており、例えば猫背の姿勢は腰痛発症の原因の一つとされています。(*6)
日本整形外科スポーツ医学会が自分でできる有効な筋力トレーニング方法を公表しているのでご紹介します。(http://www.jossm.or.jp/series/flie/020.pdf)
①ドローイン
膝を立てて仰向けに寝て、こしぼねのやや内側に指を当て、おへそを床に近づけるようにお腹を引き込みます。
そのとき指を当てた部位の筋肉(腹横筋:ふくおうきん)が硬くなっていることを確認します。
この体操を1日10回程度で3-6セット行います。
②下向きブリッジ(上肢挙上)
手と膝をついて四つ這いになります。
このとき背中が反らないように、おへそを軽く引き込んでください。
次に片方の手を挙げます。このとき挙げた側の腹筋が働きます。
この姿勢を1回片側10秒程度で3-6セット行います。
この姿勢で体がぐらつかず、楽に10秒間保てるようなら次に進みます。
③下向きブリッジ(上下肢挙上)
挙げた手と反対側の足を挙げます。このとき挙げた足側の背筋も働きます。
この姿勢を保つ運動を、慣れない方は1回片側10秒を3-6セット行い、慣れてきたら1回片側30秒を2セット行います。
治療法②ブロック注射療法
先述した通り、腰痛に対する神経ブロック注射は有効な治療法の一つとして現在多くの現場で採用されています。
その効果を調査した研究では、腰痛を訴える236名を対象にブロック注射を行い、下肢痛を伴う腰痛の65%で症状が消失したとし、また下肢痛を伴わない腰痛の22%で症状が消失したという結果になりました。(*18)
また違う研究では、平均年齢65.6歳、男性32例・女性31例の合計63例からなる対象者へブロック注射を行い、その痛みの評価を5点法で設け比較したところ、注射前の痛みのスコアは平均2.4点から注射後は平均0.7点となり、改善率は73%という結果となりました。
改善率が60%以上の結果になったのは63例中53例とされ、84%で悪化例は1例もありませんでした。(*19)
このように、腰痛に対するブロック療法は有効な手段であるということは広く認識されています。また一時的な痛みの緩和でも患者の満足度は高いという報告がされており、増加する高齢者の腰痛に対して極めて有効な方法だとされています。
鎮痛剤と比較し、局所麻酔薬は極めて安全性が高く副作用は少ないとされます。
ただし、神経の集中している部位であるため後遺症の恐れはありますが、脊髄外科専門医等資格を持つ医師や、経験を積んだベテランの医師による実施であれば基本的に心配はありません。
上記のような研究や論文が公表されている一方で、取材医師によると、痛みの程度によっては効果期間が数日間と限定的な場合もあるのが実情です。
「痛みの軽減」のための治療としてではなく、注射で患部に薬剤を入れることによって変性した椎間板の場所の特定ができるため、「患部の場所を特定するための診断目的」で使用することもあります。
ブロック注射ではあまり効果が感じられないという方に対しては、次の「インターベンショナル療法」が試されることが多いので詳しくご紹介します。
治療法③インターベンショナル療法
インターベンショナル療法とは、CTや血管造影装置などの高度な画像診断装置を用いて、局所麻酔でカテーテル(直径2mmほどの細長い管)を血管内に挿入することや、専用の針で患部を刺すことで特殊検査や治療を行う療法です。
高周波熱凝固法(こうしゅうはねつぎょうこほう)
椎間板性腰痛に対するインターベンショナル療法の研究は様々なされておりますが、(*7)まずはその中でも高い有効性が期待されている治療法の一つとして挙げられる、「高周波熱凝固法(IDET)」をご紹介します。
高周波熱凝固は、目的とする神経に高周波電流を流すことで神経を熱凝固させ、神経伝達を遮断する治療法です。
高周波電流の温度は一般的に50〜90℃とされており、凝固時間は90〜180秒とされています。(*20)
遮断された神経が再生するまで効果が持続するとされ、その期間は個人差がありますが、数か月から1〜2年とも言われています。
慢性椎間板性腰痛を抱える患者に対し、椎間板内に対する高周波熱凝固法を施行した研究があります。
その評価基準を、VAS(=痛みを評価する指標)、ローランド障害スコア(=日常の生活行動が障害されるか否かを尋ねる24の項目からなる国際的な評価基準)、座位許容時間の3つで評価しました。
その結果、施行3ヶ月後以降で疼痛・身体機能・QOL(生活の質)の改善が見られたこと、また治療による重篤な合併症が起こらなかったことなどから、椎間板性腰痛に対する高周波熱凝固法は、患者への身体的な負担の少ない有効な治療法の一つとして考えられています。(*8)
パルス高周波療法
パルス高周波療法は、42℃以下の比較的低温の高周波電流を一定の感覚をあけながら神経に与え、神経を刺激しながら痛みを軽減する治療法です。
周辺の温度変化が大幅に起こることがないため固まらず、筋力低下や知覚障害、運動麻痺が生じにくいとされる点が特徴です。(*20)(*21)
一方で高周波熱凝固法は、施行する神経部位や凝固熱温度によってその効果に幅があり、局所麻酔に近い軽めのものから、痛みを感じる神経そのものの破壊に当てはまるようなものまであります。
先述した「ブロック注射」では効果が一時的だった腰痛を訴える患者に対し、40℃の低温でパルス高周波療法を行ったところ、効果の有効期間が伸びたとされる報告があります。
また違う研究では、腰痛を持つ患者に対し、40℃での高周波熱凝固法とパルス高周波療法を行ったところ、パルス高周波療法が相対的に優れていたという報告もされています。(*20)
レーザー療法
レーザー療法とは、痛みを引き起こしている神経に対しレーザーを照射し焼くことによって痛みの元を取り除く治療法です。
椎間板性腰痛に対するレーザー療法も、その有効性が公表されています。
保存療法を6ヶ月以上試しても効果がみられなかった椎間板性腰痛の11人の患者に対しレーザー療法を行い、その後2年間の経過観察を行った研究があり、手術後に「ODI」(世界で最も広く使用されてきた腰痛疾患に対する機能障害や社会的な損失などを評価する項目)と「VAPI」(10段階の自己疼痛評価)の2つの指標でこの研究結果を評価しました。(*23)
その結果、ODIのスコアが平均50.3から2年後には平均9.4にまで減少し、VAPIのスコアは平均7.6から2年後には1.2までに減少しました。
この研究から、椎間板性腰痛に対するレーザー療法は、その有効性が高いと言えます。
患者への身体的な負担が比較的少ない選択肢として以上3つの治療法をあげましたが、自身の症状によって適する治療法が異なりますので、医師と相談の上、自分に合った治療法を選択するようにしてください。
治療法④手術療法
腰痛だけの場合、基本は薬物療法や運動療法の保存的療法が用いられることが多いとされています。
腰痛における手術療法では主に「腰椎固定術」が用いられます。
腰椎固定術とは椎間板の変性により脊柱(背骨)のバランスが崩れ腰痛を引き起こす際に、乱れが生じている椎骨にプレートなどの器具を埋め込み固定させる手術です。
比較的合併症が起こりにくいとされており、長い歴史があるため信頼性も高いとされる技法です。
その有用性や手術による身体的負担・合併症などの観点から、保存療法を選ぶか手術療法を選ぶかは賛否両論であり、結論が出ていないのが現状です。しかし、腰の痛みと同時に足の痛みや痺れなどの神経圧迫症状がある場合、手術療法を選択することが最適な手段という場合もあります。
合併症に関して補足すると、腰椎固定術の術後合併症の1つにあげられる症例の中に「隣接椎間障害」というものがあります。
隣接椎間障害とは手術後に腰痛や下肢症状(下半身の痛みや痺れなど)が起こり、予後を悪化させるひとつの原因として認識されています。
ある調査では、腰椎固定術を行った439例中、3.6%の16例で隣接椎間障害が起こり、そのうちの8例(1.8%)で再手術が行われ、さらに2例で再再手術が行われたとの報告もあります。(*22)
椎間板性腰痛に対する手術療法の検討は、受けるリスクやメリット・デメリットを医師としっかり相談した上で選択することが大切です。(*9)(*10)
新たな選択肢としての治療法〜PRP療法〜【再生医療】
PRPとは
保存療法と手術療法の中間に位置付けられている新たな治療法に「PRP療法」があります。
PRPとはPlatelet-Rich Plasmaを略した名称です。日本語では多血小板血漿と呼ばれ、血小板を濃縮したものを指しています。
血小板とは、血液の中に存在する細胞の一つで、血液凝固に関わる重要な役割を持っています。
私たちが出血するような怪我をした際、血小板は傷口に集まり、傷口を塞ぐために細胞外基質と呼ばれる物質を放出して血栓を形成します。
この血栓は出血を止める役割があり、傷口の治癒を促進する働きを持っています。
PRP療法の方法
PRP療法は、患者様ご自身の血液から多血小板血漿を抽出し、それを患部に注入することで痛みを和らげたり組織修復を期待する治療法のことです。
自分自身の血液成分だけを用いる治療法なので、免疫反応が起きにくいとされています。また原則入院が不要なので、日帰りで治療を行うことができます。
PRP療法の効果
多血小板血漿には多くの成長因子が含まれており、その成長因子に着目したのがPRP療法です。人が本来持っている治癒能力や組織修復能力を最大限発揮する治療法として期待されています。
現在、様々なスポーツ疾患や関節症、また美容や歯科などの分野でも用いられるようになり、椎間板性腰痛に対してもPRP療法の応用が期待されています。(*11)
PRP療法と他の治療法との比較は、例えば先述したレーザー療法は神経を焼くため、副作用として稀に施術箇所が凝固してしまうことがあります。
一方でPRP療法はそういったことが起こらないことや、神経障害の回復(痛みの緩和)も期待できます。
PRP療法が受けられない方
PRP療法を受けるには医師の診断が必須となりますが、診断の結果PRP療法が受けられない場合もあります。(例:ケロイド体質の方や抗凝固剤を使用している方、肝機能障害がある方など)(*12)
PRP療法をご検討の方は、まずは身近にあるPRP療法を行っている医療機関へご相談ください。
PRP療法を応用したPFC-FD™療法
PFC-FD™療法とは、一つ前に述べたPRP療法由来の治療法です。PRP療法と同様に、血液中に含まれる成長因子を活用した治療法で、患部の修復や再生促進が期待できるとされています。
椎間板性腰痛に対するPFC-FD™療法の応用
椎間板性腰痛の患者に対してPFC-FD™療法とほとんど同様の技術であるPRP療法を施した研究で、有効な結果が多数報告されています。
一例として、29人への臨床研究を行いその後2年間続けた追跡調査では、痛みと機能の改善が見られたとの報告がされています。(*13)
また、保存療法で改善しなかった47人の椎間板性腰痛を持つ治験者に対しPRP療法を無作為に施した研究もあります。その結果、痛み・機能・患者満足度の観点で統計的に有意な改善が見られたとしています。(*14)
これらの研究からも分かるように、PRP療法を応用し血小板内の成長因子を活性化した技術であるPFC-FD™療法が椎間板性腰痛への活用に有効的であると考えられます。
PRP療法とPFC-FD™療法の違い
PRP療法と比較したPFC-FD™療法の特徴として、主に次の3つが挙げられます。
①成長因子の総量がPRP療法の約2倍とされる(TGF-β)(*15)
(*ただし、個体差により血球量や生成時の条件(遠心分離の回転数や時間など)が異なるため、正確なデータを集めるための検証を続けていく必要があります)
②白血球成分を含まないため、注射後の痛みがPRP療法よりも比較的少ないとされる
③フリーズドライ加工をするため、6ヶ月間の保管が可能(PRP療法は採血当日)
また、PFC-FD™療法は1回の採血で作製できる量が多く保管可能期間も長いため、複数回に分けて施行できる点も特徴として挙げられます。
PFC-FD™療法が活用できる疾患の例
PFC-FD™療法は現在までに主に整形外科領域の疾患で幅広く活用されています。
疾患対象部位疾患
疾患 | 対象部位 | 疾患の例 |
---|---|---|
変形性関節症 |
膝
肘
足首
|
変形性膝関節症
変形性股関節症
|
靭帯損傷 |
膝
肘
|
膝十字靭帯損傷
肘関節靭帯損傷
|
腱炎 |
膝
足首
|
膝蓋腱炎
アキレス腱損傷
|
椎間板性腰痛、また様々な原因で起こる腰痛に対し、PFC-FD™療法がもたらす今後の期待について取材先の田中医師からは、
①加工のタイミングで無細胞化していることで「白血球」が含まれていないこと(白血球が含まれないことで炎症反応が抑えられ、患者が痛みを感じにくくなるとされています)
②保管期間が半年間あるため施術のタイミングに融通がきくこと
③安定性があること
上記3つの理由から今後の可能性に期待できるとのコメントをいただきました。
ただし、椎間板性腰痛をはじめとする「腰痛」に対してのPFC-FD™療法は、”腰部は様々な神経が集中する部位”ということもあり、非常に難易度が高い手技であると言えます。
PFC-FD™療法を受ける流れやメリット・デメリットなどについて、下記の記事で詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
・PFC-FD™療法(血液由来の成長因子を用いたバイオセラピー)とは
まとめ
このページでは、多くの人が悩まされている腰痛について、その中でも椎間板を起因とする椎間板性腰痛についてご紹介しました。
日常生活を健康に過ごすためには、少しでも腰に違和感を感じたら、放置せずに医療機関で診察を受けるようにすることが大切です。
「保存療法では効果があまり感じられない」
「手術はしたくない」
「痛みがなるべく少ない方法を試したい」
という方がいましたら、PFC-FD™療法を新たな選択肢の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。
PFC-FD™療法を取り扱っているお近くの医療機関を知りたい方は、ぜひ下記のページでお探しください。
※注釈
*1…「椎間板変性症と再生医療の今」、 東海大学医学部外科学系整形外科学 堀北 夏未・酒井 大輪、Pharma Medica Vol.38 No.1 2020
*2…「椎間板性腰痛の基礎」、高橋 弦・大鳥 精司・青木 保親・高橋 和久、日本腰痛会誌 13(1):10-16, 2007
*3…「椎間板性腰痛に関する基礎的研究のレビュー」、 依藤麻紀子・遠藤穀・澤地泰昇・小坂泰一・山本健吾、第168回東京医科大学医学会総会 P2- 29 2012.1
*4…「腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版」、 監修:日本整形外科学会・ 日本腰痛学会、 編集:日本整形外科学会診療ガイドライン委員会・腰痛診療ガイドライン策定委員会
*5…「椎間板に加わる負荷の推定方法の研究」、 知能機械力学研究室 清岡嵩大、2008.3
*6…「椎間板負荷推定のための脊柱の構造解析」、鈴木 佑・芝田 京子・井上 喜雄・園部 元康、中国四国支部総会・講演会 講演論文集 2019.3
*7…「慢性疼痛に対するインターベンショナル治療の実際」、大瀬戸 清茂・内野 博之・ 福井 秀公、日本臨床麻酔学会誌 2019 年 39 巻 5 号 p. 531-537
*8…「慢性椎間板性腰痛に対する椎間板内高周波熱凝固法」、新井 一仁・福井 弥己郎(聖)、岩下 成人、岩本 貴志、飯田 温美、野坂 修一、滋賀医大誌 24(1), 35-40, 2011
*9…「椎間板性腰痛の臨床」、大鳥 精司、高橋 和久、守屋 秀繁、高橋 弦、木下 知明、中村 伸一郎、日本腰痛会誌, 13(1) : 17-23, 2007
*10…「慢性腰痛に対する手術治療─適応と注意点」、佐藤 栄修・鱧永 浩・吉本 尚・百町 貴彦・柳橋 寧、日本腰痛学会雑誌 2004 年 10 巻 1 号 p. 31-39
*12…「PRP(自己血高濃度血小板血漿)療法治療説明書」、厚生労働省、2018
*15…「変形性膝関節症に対する再生医療を利用した保存療法の実際 ーPRP・間葉系幹細胞・セルフリー療法ー」、桑沢綾乃・仁平高太郎、臨床スポーツ医学vol.37 No.7 2020
*16…「高齢者の腰痛症におけるサルコペニア」、酒井 義人、2017 年 32 巻 1 号 p. 13-18
*17…「椎間板性腰痛に関する基礎研究」高橋 和久、日本腰痛会誌,14(1): 45 ‒ 49, 2008
*18…「腰痛に対する腰部交感神経節ブロック」大谷 晃司、菊地 臣一、紺野 慎一、矢吹 省司、五十嵐 環、二階堂 琢也、日本腰痛学会雑誌 2006年 12巻 1号 p.61-66
*19…「腰痛と下肢痛に対する神経ブロック療法とトリガーポイント注射の効果」伊藤 博志、高山 瑩、岩間 徹、木下 朋雄、日本腰痛学会雑誌 2001年 7巻 1号 p.110-113
*20…「高周波熱凝固法・パルス高周波療法・硬膜外脊髄電気刺激療法」篠崎 未緒、濱口 眞輔、Dokkyo Journal of Medical Sciences 38(3):335〜342, 2011
*21…「パルス高周波法(pulsed radiofrequency: PRF)up to date」福井 弥己郎(聖)、2013 年 20 巻 1 号 p. 1-7
*22…「低侵襲腰椎椎体間固定術後の隣接椎間障害の検討」、深谷 賢司、長谷川 光広、白土 充、第31回日本脊髄外科学会推薦演題抄録、Spinal Surgery 30 (3) 287-289, 2016
*23…「椎間板性腰痛に対するレーザー治療」、大西 諭一郎、岩月 幸一、吉峰 俊樹、梅垣 昌士、芳村 憲泰、石原 正浩、森 康輔、2010 年 31 巻 2 号 p. 141-145